スノウチニュース<№210> 令和4年4月


【鉄骨需要月別統計】
2月鉄骨需要量は34万2,900トン(前年同月比7.8%増)
21年度(4~2月)は429万9,950トン(前年同期比15.1%増)

国土交通省が3月31日発表した「建築物着工統計調査」の2022年2月着工総面積は9,221千平方メ―トル(前年同月比7.3%増)となり、前年同月比では4ヵ月連続増となった。10,000千平方メートル割れは2ヵ月連続となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が276千平方メートル(同13.8%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽民間建築物は8,945千平方メートル(同8.1%増)となり、同12ヵ月連続増となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,510千平方メートル(同4.9%増)となり、同12ヵ月連続増となった。▽非居住建築物は3,711千平方メートル(同11.0%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造が3,314千平方メートル(同7.5%増)となり、同14ヵ月連続増となった。▽SRC造が230千平方メートル(同15.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
一方、▽RC造が1,921千平方メートル(同31.3%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。▽W造が3,697千平方メートル(同2.1%減)の微減となり、同2ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は33万1,400トン(前年同月比7.5%増)となり、同14ヵ月連続増となった。SRC造は1万1,500トン(同15.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。鉄骨造の合計では前月比3.4%減の34万2,900トン(前年同月比7.8%増)となった。
21年度(4~2月)では、S造が420万6,700トン(前年同期比15.2%増)、SRC造が9万3,250トン(同1.7%増)となり、鉄骨造の合計では429万9,950トン(同15.1%増)となった。

21年2月-22年2月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2021/2 308,300 2.8 9,900 -4.9 318,200 2.5
3 376,700 3.6 2,900 -41.4 379,600 2.9
4 387,600 8.3 6,000 -39.7 393,600 8.5
5 387,600 10.1 5,400 -62.6 393,000 7.4
6 412,400 13.0 8,750 106.2 421,150 14.1
7 370,100 4.5 5,450 158.8 375,550 5.4
8 322,500 10.7 3,700 37.0 326,200 11.9
9 342,700 1.7 8,950 -29.0 351,650 0.7
10 530,900 61.7 11,000 105.3 541,900 65.7
11 346,400 15.4 7,050 -50.5 353,450 12.5
12 427,400 26.5 18,200 61.4 445,600 27.6
2022/1 347,700 9.2 7,250 50.6 354,950 9.9
2 331,400 7.5 11,500 15.9 342,900 7.8
暦年計(22/1~2) 679,100 8.4 18,750 27.6 697,850 8.8
年度計(21/4~22/2) 4,206,700 15.2 93,250 1.7 4,299,950 15.1

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連2月総受注額1兆2,751億円(前年同月比0.3%減)
民間工事9,955億6,500万円(前年同月比18.7%増)

日本建設業連合会(日建連)が3月28日に発表した会員企業95社の2022年2月受注工事総額は1兆2,751億5,100万円(前年同月比0.3%減)の微減となり、前年同月比で6ヵ月ぶりの減少となった。うち民間工事が9,955億6,500万円(同18.7%増)となり、同6ヵ月連続増となった。官公庁工事が2,733億5,900万円(同28.9%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
国内工事が1兆2,709億1,600万円(同3.6%増)となり、同6ヵ月連続増となった。民間工事の9,955億6,500万円のうち、▽製造業が2,212億3,400万円(同88.4%増)となり、同2ヵ月連続増になった。▽非製造業が7,743億3,100万円(同7.3%増)となり、同6ヵ月連続増となった。
官公庁工事の2,733億5,900万円のうち、▽国の機関が1,933億2,000万円(同31.4%減)の大幅減となり、同3ヵ月連続減となった。▽地方の機関が800億3,900万円(同22.0%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽その他が19億9,200円(同49.8%減)の大幅減なり、同1ヵ月で減少となった。▽海外工事が42億3,500万円(同91.9%減)の大幅減となり、同3ヵ月ぶりに減少となった。
21年度(4~2月)の受注工事総額が12兆4,796億1,700万円(前年同期比10.0%増)となり、▽民間工事額が8兆9,751億8,600万円(同17.9%増)、▽官公庁工事が3兆1,951億9,400万円(同7.6%減)、▽海外工事が2,873億2,700万円(同23.2%増)となった。
一方、2月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が458億0,700万円(前年同月比17.9%増)となり、前年同期比で7ヵ月連続増となった。▽東北が1,039億6,500万円(同3.1%減)となり、同3ヵ月連続減となった。▽関東が6,295億3,800万円(同6.3%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽北陸が559億7,500万円(同0.6%減)の微減となり、同3ヵ月連続減となった。
▽中部が1,174億4,200万円(同27.9%減)となり、同9ヵ月ぶりの減少となった。▽近畿が1,446億4,400万円(同17.7%減)となり、同2ヵ月連続増となった。▽中国が438億8,400万円(同23.6%増)となり、同1ヵ月で増加となった。▽四国が204億1,700万円(同31.8%減)となり、同10ヵ月ぶりの減少となった。▽九州が1,092億5,300万円(同34.9%増)となり、同1ヵ月で増加となった。


2月粗鋼生産729.9万トン(前年同月比2.3%減)
1月普通鋼建築用47.1万トン(同13.6%減)

日本鉄鋼連盟は3月22日に発表した2022年2月の銑鉄生産は523.3万トン(前年同月比4.5%減)となり、前年同月比では2ヵ月連続減。粗鋼生産は729.9万トン(同2.3%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が535.3万トン(同3.5%減)となり、同2ヵ月連続減、▽電炉鋼が194.6万トン(同1.2%増)となり、同12ヵ月連続増。鋼種別生産では、▽普通鋼が566.8万トン(同1.5%減)となり、同2ヵ月連続減、▽特殊鋼が163.0万トン(同4.9%減)となり、同12ヵ月ぶりの減少となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は639.6万トン(同2.3%減)となり、同2ヵ月連続減。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産498.5万トン(同1.5%減)となり、同2ヵ月連続減。 ▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は141.2万トン(同4.8%減)となり、同14ヵ月ぶりの減少となった。
一方、1月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は44万3,027トン(同3.4%減)。うち▽非住宅が31万8,085トン(同6.5%減)、▽住宅が12万4,942トン(同5.5%増)となった。
21年度(4~22年1月)の建築用は495万2,670トン(前年同期比1.2%増)。うち▽非住宅が363万9,282トン(同5.5%増)となり、▽住宅が131万3,388トン(同9.1%減)となった。


1月溶接材料の出荷量1万7,387トン(前年同月比2.0%増)
21年度(4~1月)の出荷量18万0,981トン(前年比9.0%増)

日本溶接材料工業会が発表した2022年1月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万6,564トン(前年同月比7.4%増)の前年同月比で9ヵ月連続増となり、出荷量は1万7,387トン(同2.0%増)の同10ヵ月連続増となった。在庫量は1万4,784トン(同10.1%減)となり、同15ヵ月連続減となった。
生産量の主な品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,060トン(同17.1%増)の同10ヵ月連続増。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が4,866トン(同9.0%減)となり、同4ヵ月ぶりの減少。▽被覆アーク溶接棒が2,141トン(同18.7%増)となり、同6ヵ月連続増。その他を含む生産量計では1万6,564トン(同7.4%増)となった。
出荷量の主な品種は▽SWが7,271トン(同4.9%増)の同10ヵ月連続増。▽FCWが5,540トン(同5.8%減)の同4ヵ月ぶりの減少。▽溶接棒が2,069トン(同12.6%増)となり、同10ヵ月連続増。その他を含む出荷量計では1万7,387トン(同2.0%増)となった。
在庫量の主な品種は▽SWが5,179トン(同9.9%減)の同13ヵ月連続減。▽FCWが4,736トン(同23.8%減)の同14ヵ月連続減。▽溶接棒が3,069トン(同30.9%増)となり、同4ヵ月連続増。その他を含む在庫量計では1万4,784トン(同10.1%減)となった。
21年度(4~22年1月)の生産量は17万8,744トン(前年度同期比10.5%増)となり、出荷量は18万0,981トン(同9.0%増)となった。なお、財務省の貿易統計による1月の輸出量は2,683トン(前年同月比2.7%増)となり、輸入量は5,736トン(同10.0%増)となった。

21年1月-22年1月 溶接材料月別実績表

生産量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比
フラックス入りワイヤ 前年比
被覆溶接棒 前年比
合計 前年比
2021年 1 6,028 ▼18.5 5,346 ▼20.2 1,803 ▼13.5 15,419 ▼17.9
2 6,781 ▼8.1 5,644 ▼16.9 1,982 2.2 16,888 ▼8.0
3 7,372 ▼3.6 5,788 ▼20.2 2,157 ▼7.0 17,809 ▼9.2
2021年度 4 7,426 4.2 6,047 ▼10.7 2,145 0.0 18,294 ▼2.3
5 7,329 32.8 5,302 ▼0.7 1,994 15.5 16,917 14.7
6 7,947 58.7 6,488 ▼3.8 2,432 14.7 19,285 17.5
7 7,688 51.0 5,861 ▼5.7 2,217 ▼0.4 17,975 11.1
8 6,372 25.8 4,586 ▼6.8 2,406 49.0 15,365 11.1
9 7,512 31.4 6,133 ▼0.8 2,404 35.4 18,148 15.3
10 7,822 11.8 6,430 10.3 2,471 43.0 18,810 9.9
11 7,922 5.2 6,390 9.1 2,419 31.1 19,137 9.8
12 7,490 12.9 6,017 13.6 2,396 44.3 18,249 14.0
1 7,060 17.1 4,866 ▼9.0 2,141 18.7 16,564 7.4
2021年度(4~1月) 74,568 22.3 58,120 ▼0.6 23,025 23.5 178,744 10.6
2022年(1月) 7,060 17.1 4,866 ▼9.0 2,141 18.7 16,564 7.4

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

 

出荷量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比
フラックス入りワイヤ 前年比
被覆溶接棒 前年比
合計 前年比
2021年 1 6,932 ▼1.0 5,878 ▼15.3 1,838 ▼17.4 17,053 ▼9.1
2 6,847 ▼1.1 5,689 ▼12.7 1,988 ▼2.2 16,851 ▼5.4
3 7,266 ▼1.5 5,404 ▼21.8 1,907 ▼10.4 17,271 ▼8.0
2021年度 4 7,996 20.7 6,561 1.4 2,497 32.5 19,700 12.6
5 6,937 24.6 5,865 2.8 2,146 6.0 17,016 6.7
6 7,981 43.0 6,340 ▼2.8 2,216 2.5 18,997 12.7
7 7,353 48.6 5,557 ▼6.6 2,101 2.8 17,173 7.8
8 6,834 28.8 5,535 3.2 2,345 22.5 16,871 12.3
9 8,231 29.1 6,063 ▼0.4 2,154 6.2 18,815 13.5
10 7,377 9.9 6,320 9.8 2,373 24.9 18,118 7.2
11 7,460 4.0 5,935 0.1 2,295 26.5 18,290 6.3
12 7,738 8.3 6,220 10.8 2,348 22.4 18,614 9.4
1 7,271 4.9 5,540 ▼5.8 2,069 12.6 17,387 2.0
2021年度(4~1月) 75,178 20.6 59,936 0.5 22,544 15.5 180,981 9.0
2022年(1月) 7,271 4.9 5,540 ▼5.8 2,069 12.6 17,387 2.0

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
法円坂北特区の高級ホテルは竹中工務店
S造系、地下3階・地上20階、延床約4万平米

NTT都市開発は大阪城公園と難波宮跡公園の間に位置し、大阪城・大阪市内を一望できる好立地のNTT西日本本社ビル跡地(大阪市中央区馬場町3-15、法円坂北特定街区のA敷地)に高規格ホテル建設を進めている。
建設概要は、A敷地の面積約4,900平方メートル、建築面積約2,800平方メートルに、S造・一部SRC造、地下3階・地上20階・塔屋2層建て、高さ102メートル、客室約220室(1室当たり50平方メートル)、延べ床面積約3万9,000平方メートル。 基本設計はNTTファシリティーズが担当し、実施設計・施工は竹中工務店となっている。 2023年2月に着工し、25年1月に完成予定で、同年春の開業を目指している。
ホテルの特徴は、国際会議やパーティーに利用できる多目的ホールのあるMICE施設(ミーティング、トラベル、コンベンション、エキシビション)となり、高層階には大阪城や難波宮跡を眺望できるレストランなどを有するフルサービスホテルとなる。 ホテル名(ブランド)は今のところ未定。
NTTアーバンソリューションズが総合企画を担当し、NTT西日本本社ビル跡地(地上16階/A敷地)、NTT西日本馬場町ビル(地上7階/B敷地)、駐車場として使用している史跡指定地を一体的に整備する。 ホテル以外はNTT西日本が開発・整備を担当する。
NTT西日本馬場町ビルは地下2階・地上1階に減築し、屋上に大阪城天守閣を臨めるオープンスペースを整備する。 西側の史跡指定地は、難波宮跡の遺構を表現した広場に整備して開放。同ホテルまで大阪メトロ・中央線と谷町線「谷町四丁目駅」から徒歩8分。

連載/あの人、この人(最終回)
研究から教育者の稲垣道夫氏

業界紙や専門誌記者は<三密>が必須となる。企業・学術・団体人とは取材を通し、より密接さを増し、オフレコ(非公式、内密)は固く守ること、業界人が多く集まる会合や講習会、シンポジウムには何を置いても馳せ参じる。<親密さ><秘密の厳守><密集の場>の三密は欠かせないのである。
最終回なのですべて実名表記。登場する人は日本溶接技術センター元理事長の稲垣道夫氏。
稲垣氏の経歴は、1923年3月29日生まれ、愛知県出身。45年9月名古屋大学工学部金属学科卒・同大助手経て、59年3月同大助教授(工学博士)、同年8月科学技術庁金属材料技術研究所研究室長を経て、68年同研究所溶接研究部長。83年3月日本溶接技術センター理事長・日本溶接専門学校長に就任。81年まで溶接学会理事、70年から日本溶接協会理事、73年から日本圧力技術協会理事など要職を務める。
著書は「溶接加工学」(誠文堂新光社刊)、「炭素材料工学」・「溶接技術講座」(日刊工業新聞社刊)、「新しい溶接方法のかんどころ.溶接管理のかんどころ」・「構造用鋼材溶接の実際」(共著・産報出版刊)をはじめ「高張力鋼と溶接」など多くの鋼材・溶接関係の共著書や学術論文。
日本溶接技術センター(以下・日溶セ)は、通商産業大臣認定により1969年8月に財団法人として設立。その当時、溶接界筋から「溶接学会、日本溶接協会があって、なぜ今、新たな団体が必要か」との反対論もあったが、設立の後ろ盾に<土光臨調>の土光敏夫経団連会長(東芝・IHI会長)がおり、提唱者に東芝技術研究所・三上博氏(工博)らが、「溶接技能・技術を養成し、かつ伝承する機関が必要」との強い要望が溶接界を動かし、通産省大臣の認定で設立した経緯と記憶している。
稲垣氏が24年間勤めた金属材料技術研究所(以下・金材研)は、2001年4月に旧科学技術庁所管の無機材料研究所と合併し、国立研究開発法人「物質・材料研究機構」(つくば市)になっている。かつての金材研は目黒川を渡った目黒区中目黒2丁目の高台にあり、地下鉄日比谷線・中目黒駅から徒歩で行ける場所だった。
余談になるが、金材研では忘れられない体験がある。総合出版・産報(現・産報出版)の溶接業界紙『溶接ニュース』に配属され2年目の65年秋だったか、特集号の原稿依頼で金材研・技官の橋本達哉氏を訪ねた時の出来事である。受付で「橋本先生にお会いに来ました」と告げると、受付職員は「お約束ですか?」と問われ、私は「少し早いが約束です」と伝えると、女性職員に案内され大きな部屋の前に来た。部屋の奥の豪華机に座っている人物を見て、これは間違いと気づき、職員に「人を間違えたようです」と小声で伝えていると、奥から「君、こっちに来て」と手招きされ、言われるまま革張りのソファーに座るはめになる。
この人、橋本宇一所長(68歳)だった。突然現れた若い記者に興味を覚えたか、それとも暇つぶしなのか、「きみ、溶接研の達哉君との<橋本違い>か!まあいい、少し付き合え」と言って、「きみと同い年ぐらいかな、甥の龍太郎が代議士になった。君、知っているかな?厚生相と文部相を務めた橋本龍伍。彼は私の末弟でね。その龍伍が亡くなり、この間の総選挙で甥が後を継いだ」と語りだし、私は相槌を打つしかない。
甥が国会議員になったことがよほど嬉しかったのだろう。末弟と甥の話で終始した。その時は龍太郎氏が総理大臣になるとは夢にも思わなかった。それでも、龍太郎氏が童顔とはいえ4歳も年上だったので同年代に見られたのは光栄だった。所長室を辞した後の記憶は完全に飛んでいる。
この頃の稲垣氏は着々と実績を上げ、鉄鋼・溶接関係の研究論文を数多く発表している。金材研・研究室長・研究部長として溶接界での知名度は高まっていた。先輩記者曰く、「稲垣さんは、事前に知識を入れていかないと相手にされない」と言い、研究気質で厳しい人のようだった。
88年春に鋼構造出版の東京本社に異動し、『鉄構技術』の創刊編集長になってから日溶セ(川崎市)に頻繁に通うようになり、理事長の稲垣氏と接触する機会が多くなる。稲垣氏は日本エンドタブ協会(JETS)会長もされ、JETS正会員に製鉄系溶接材料メーカーが挙って入会するなどエンドタブ・溶接副資材を網羅した団体となり、鉄骨溶接の品質向上に大きな役割を果たすようになる。
『鉄構技術』創刊1年後の89年7月号で稲垣氏のインタビューをした。金材研ではかなり厳しい人のようだったが、この時は穏やかな教育人になっていた。稲垣氏は、「(私の)金材研時代は、大型構造物の高張力鋼溶接や原子力プラント溶接、鋼材と溶接と幅広い研究だった」と語り始め、73~59年には建材試験センターの<建築・土木材料の安全のための標準化研究>の溶接部会長を務めた。「この研究委員会長が加藤六美先生(東大)で、後に仲威雄先生(東大)になりました。金属部会長が藤本盛久先生(東工大)、コンクリート部会長が西忠雄(東大)先生だった」と、そうそうたる先生方との研究・交流となり、鉄鋼・溶接・鋼構造の重鎮を通して多くの人脈づくりの場になったようだ。
そして日溶セ理事長就任では「(私に)課せられた目標は、日溶セの再建だった。5年で軌道に乗せることができた。原子力関連の委託研究、建築鉄骨の確性試験と技量認定試験、日本溶接専門学校(略・日溶専、現・日本溶接構造専門学校)の生徒数が増えたことなどが挙げられる」と語り、その成果は専務理事の江川吉光氏(元日本油脂)、常務理事・日溶専教授の馬田豊昭氏(元新日鉄・鉄鋼短大)ら役員・職員の努力だと言う。
日溶セの事業方針では、「まず、<社会人の溶接・検査の人材確保と革新技術を採り入れた溶接品質の向上に尽力する>とし、溶接技能・技術をめざす人、すでに従事している人への学び・鍛錬する場であること。設立時の精神でもある<次世代への技能・技術伝承への指導・支援>の継続が大事になる」と語り、稲垣氏自身も長年の鉄鋼・溶接・鋼構造の先端研究者から伝承教育者へと変貌した。
日溶セはJR・京急川崎駅から徒歩10分と利便性もあり、全構連(現全構協)ら鉄骨ファブリケーターの大臣認定工場に欠かせないJIS溶接技能者、非破壊検査のUT検査技術者など資格取得の実技訓練やJETS主催の「エンドタブ技能講習会」など各種講習会場として大いに活用される施設でもある。
溶接界の重鎮で、かつ多くの重職に就く稲垣氏は理事長・校長室の席を温めることなく、多忙を極める日々だった。会えば、にこやかに「鉄骨の需要状況はどうですか」と鉄骨ファブ業界の動向に触れるなど気楽に接して頂いた。日溶専生徒の大半が鉄骨ファブ経営者の子弟であったこともあり、生徒とのコミュニケーション情報収集に努めるなど教育者然としていた。
そうした稲垣氏の教育方針が教授・講師・指導員陣にも伝わり、在学中に溶接技能・非破壊検査など多くの資格取得のための実技指導にも熱が入り、良き子弟関係が築かれている。卒業後は稼業(鉄骨ファブ)や大手ファブに務めるなどし、相談事で来校する一方、卒業生同士が相互に連絡し合うなどの強い絆が睦まれている。
確か稲垣氏は傘寿を前に亡くなられたと記憶するが、何故かご自宅とは遠く離れた中目黒の日蓮宗寺院「正覚寺」で執り行われた。同寺院は目黒川を挟んで旧金材研であることから、生前に決められたものと推察する。通夜・告別式には日溶セ・日構専職員をはじめ、多くの鉄鋼・溶接界、鉄骨ファブら鋼構造関係者によって見送られた。

毎回、登場する人物の選択に悩みました。お世話になった人、親しかった人、偉い人、故人になった人など様々な中から「あの人か、この人か」と迷いました。登場人物に過去の人が多く、しかも匿名が多いため分かりにくかったと思います。何かの参考になれば幸甚です。拝読を感謝いたします。
(ペンネーム・中井 勇/本名・白鳥和夫)