スノウチニュース<№209> 令和4年3月


【鉄骨需要月別統計】
1月鉄骨需要量は35万4,950トン(前年同月比9.9%増)
21年度(4~1月)は395万7,050トン(前年同期比16.0%増)

国土交通省が2月28日発表した「建築物着工統計調査」の2022年1月着工総面積は8,622千平方メ―トル(前年同月比2.9%増)となり、前年同月比では4ヵ月連続増となった。10,000千平方メートル割れは4ヵ月ぶりとなった。
▽建築主別は、▽公共建築物が347千平方メートル(同16.3%減)となり、同4ヵ月ぶりの減少となった。▽民間建築物は8,275千平方メートル(同3.9%増)となり、同11ヵ月連続増となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,358千平方メートル(同7.4%増)となり、同11ヵ月連続増となった。▽非居住建築物は3,237千平方メートル(同3.8%減)となり、同4ヵ月ぶりの減少となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造が3,477千平方メートル(同9.2%増)となり、同13ヵ月連続増となった。▽SRC造が145千平方メートル(同50.6%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
一方、▽RC造が1,460千平方メートル(同0.7%増)の微増となり、同3ヵ月連続増となった。▽W造が3,495千平方メートル(同2.3%減)の微減となり、同10ヵ月ぶりの減少となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は34万7,700トン(前年同月比9.2%増)となり、同13ヵ月連続増となった。SRC造は7,250トン(同50.6%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。鉄骨造の合計では前月比20.3%減の35万4,950トン(前年同月比9.9%増)となった。
21年度(4~1月)では、S造が387万5,300トン(前年同期比16.1%増)、SRC造が8万1,750トン(同0.0%減)となり、鉄骨造の合計では395万7,050トン(同16.0%増)となった。

21年1月-22年1月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2021/1 318,300 19.6 4,800 -10.0 323,100 19.0
2 308,300 2.8 9,900 -4.9 318,200 2.5
3 376,700 3.6 2,900 -41.4 379,600 2.9
4 387,600 8.3 6,000 -39.7 393,600 8.5
5 387,600 10.1 5,400 -62.6 393,000 7.4
6 412,400 13.0 8,750 106.2 421,150 14.1
7 370,100 4.5 5,450 158.8 375,550 5.4
8 322,500 10.7 3,700 37.0 326,200 11.9
9 342,700 1.7 8,950 -29.0 351,650 0.7
10 530,900 61.7 11,000 105.3 541,900 65.7
11 346,400 15.4 7,050 -50.5 353,450 12.5
12 427,400 26.5 18,200 61.4 445,600 27.6
2022/1 347,700 9.2 7,250 50.6 354,950 9.9
暦年計(22/1) 347,700 9.2 7,250 50.6 354,950 9.9
年度計(21/4~22/1) 3,875,300 16.1 81,750 0.0 3,957,050 16.0

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連1月総受注額1兆1,901億円(前年同月比10.5%増)
民間工事8,031億9,300万円(前年同月比27.6%増)

日本建設業連合会(日建連)が2月28日に発表した会員企業95社の2022年1月受注工事総額は1兆1,900億8,500万円(前年同月比10.5%増)となり、前年同月比で5ヵ月連続増となった。うち民間工事が8,031億9,300万円(同27.6%増)となり、同5ヵ月連続増となった。官公庁工事が3,358億5,900万円(同23.2%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
国内工事が1兆1,413億2,300万円(同7.0%増)となり、同5ヵ月連続増となった。民間工事の8,031億9,300万円のうち、▽製造業が1,283億2,400万円(同41.4%増)となり、同1ヵ月で増加になった。▽非製造業が6,748億6,900万円(同25.2%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
官公庁工事の3,358億5,900万円のうち、▽国の機関が2,260億7,500万円(同32.9%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽地方の機関が1,097億8,400万円(同9.8%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽その他が22億7,100円(同1,355.8%減)の大幅増となり、同7ヵ月ぶりの増加となった。▽海外工事が487億6,200万円(同366.2%減)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
21年度(4~1月)の受注工事総額が11兆2,044億6,600万円(前年同期比11.3%増)となり、▽民間工事額が7兆9,796億2,100万円(同17.8%増)、▽官公庁工事が2兆9,218億3,500万円(同5.0%減)、▽海外工事が2,830億9,200万円(同56.3%増)となった。
一方、1月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が347億6,000万円(前年同月比149.2%増)の大幅増となり、前年同期比で6ヵ月連続増となった。▽東北が577億5,200万円(同78.3%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽関東が5,865億4,000万円(同51.5%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。▽北陸が192億4,400万円(同50.6%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。
▽中部が1,439億8,300万円(同102.8%増)の大幅増となり、同8ヵ月連続増となった。▽近畿が1,840億4,700万円(同5.7%減)となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽中国が178億4,300万円(同17.4%減)となり、同4ヵ月ぶりの減少となった。▽四国が205億3,400万円(同57.1%増)の大幅増となり、同9ヵ月連続増となった。▽九州が766億0,900万円(同5.7%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。


1月粗鋼生産775.8万トン(前年同月比2.1%減)
12月普通鋼建築用47.1万トン(同13.6%減)

日本鉄鋼連盟は2月22日に発表した2022年1月の銑鉄生産は580.1万トン(前年同月比3.5%減)となり、前年同月比では11ヵ月ぶりの減少となった。粗鋼生産 は775.8万トン(同2.1%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少となった。
炉別生産 では、▽転炉鋼が583.3万トン(同4.2%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少、▽電炉鋼が192.6万トン(同4.9%増)となり、同11ヵ月連続増となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が589.8万トン(同2.8%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少、▽特殊鋼が186.1万トン(同0.3%増)となり、同11ヵ月連続増となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計) の生産は666.1万トン(同2.6%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は518.5万トン(同3.1%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少となった。
▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は147.6万トン(同0.6%減)となり、同13ヵ月ぶりの減少となった。
一方、12月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は47万1,032トン(同13.6%減)となった。うち▽非住宅が36万5,574トン(同4.0%増)、▽住宅が10万5,458トン(同45.6%減)となった。
21年度(4~12月)の建築用は450万9,643トン(前年同期比1.6%増)となった。うち▽非住宅が332万1,197トン(同6.8%増)となり、▽住宅が118万8,446トン(同10.4%減)となった。
21暦年(1~12月)の建築用は593万1,237トン(前年同期比2.4%増)となった。うち▽非住宅が437万8,596トン(同7.4%増)となり、▽住宅が155万2,641トン(同9.4%減)となった。


12月溶接材料の出荷量1万8,614トン(前年同月比9.4%増)
21暦年(1~12月)の出荷量21万4,769トン(前年比5.1%増)

日本溶接材料工業会が発表した2021年12月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万8,249トン(前年同月比14.0%増)の前年同月比で8ヵ月連続増となり、出荷量は1万8,614トン(同9.4%増)の同9ヵ月連続増となった。在庫量は1万5,607トン(同13.7%減)となり、同14ヵ月連続減となった。
生産量の主な品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,490トン(同12.9%増)の同9ヵ月連続増。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,017トン(同13.6%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽被覆アーク溶接棒が2,396トン(同44.0%増)の大幅増となり、同5ヵ月連続増となった。その他を含む生産量計では1万8,249トン(同14.0%増)となった。
出荷量の主な品種は▽SWが7,738トン(同8.3%増)の同9ヵ月連続増。▽FCWが6,220トン(同10.8%増)の同3ヵ月連続増となった。▽溶接棒が2,348トン(同22.4%増)の大幅増となり、同9ヵ月連続増となった。その他を含む出荷量計では1万8,614トン(同9.4%増)となった。
在庫量の主な品種は▽SWが5,390トン(同19.0%減)の同12ヵ月連続減。▽FCWが5,410トン(同19.8%減)の同13ヵ月連続減。▽溶接棒が2,997トン(同26.0%増)となり、同3ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計では1万5,607トン(同13.7%減)となった。
なお、財務省の貿易統計による12月の輸出量は2,960トン(前年同月比54.9%増)となり、輸入量は6,225トン(同16.2%増)となり、輸出入とも高水準となった。
21年度(4~12月)の生産量は16万2,180トン(前年度同期比10.9%増)となり、出荷量は16万3,594トン(同9.8%増)となった。また、21暦年(1~12月)の生産量は21万2,296トン(前年比15.3%増)となり、出荷量は21万4,769トン(同5.1%増)となった。

20年12月-21年12月 溶接材料月別実績表

生産量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比% フラックス入りワイヤ 前年比% 被 覆
溶接棒
前年比% 合 計 前年比%
2020年 12 6,637 ▼24.1 5,297 ▼27.1 1,660 ▼30.0 16,014 ▼25.3
2021年 1 6,028 ▼18.5 5,346 ▼20.2 1,803 ▼13.5 15,419 ▼17.9
2 6,781 ▼8.1 5,644 ▼16.9 1,982 2.2 16,888 ▼8.0
3 7,372 ▼3.6 5,788 ▼20.2 2,157 ▼7.0 17,809 ▼9.2
2021年度 4 7,426 4.2 6,047 ▼10.7 2,145 0.0 18,294 ▼2.3
5 7,329 32.8 5,302 ▼0.7 1,994 15.5 16,917 14.7
6 7,947 58.7 6,488 ▼3.8 2,432 14.7 19,285 17.5
7 7,688 51.0 5,861 ▼5.7 2,217 ▼0.4 17,975 11.1
8 6,372 25.8 4,586 ▼6.8 2,406 49.0 15,365 11.1
9 7,512 31.4 6,133 ▼0.8 2,404 35.4 18,148 15.3
10 7,822 11.8 6,430 10.3 2,471 43.0 18,810 9.9
11 7,922 5.2 6,390 9.1 2,419 31.1 19,137 9.8
12 7,490 12.9 6,017 13.6 2,396 44.3 18,249 14.0
2021年度(4~12月) 67,508 22.8 53,254 0.2 20,884 24.0 162,180 10.9
2021年
(1-12月)
87,689 13.3 70,032 ▼5.1 26,826 15.7 212,296 15.3

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

 

出荷量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比% フラックス入りワイヤ 前年比% 被 覆
溶接棒
前年比% 合 計 前年比%
2020年 12 7,143 ▼16.9 5,615 ▼25.1 1,918 ▼23.9 17,022 ▼21.3
2021年 1 6,932 ▼1.0 5,878 ▼15.3 1,838 ▼17.4 17,053 ▼9.1
2 6,847 ▼1.1 5,689 ▼12.7 1,988 ▼2.2 16,851 ▼5.4
3 7,266 ▼1.5 5,404 ▼21.8 1,907 ▼10.4 17,271 ▼8.0
2021年度 4 7,996 20.7 6,561 1.4 2,497 32.5 19,700 12.6
5 6,937 24.6 5,865 2.8 2,146 6.0 17,016 6.7
6 7,981 43.0 6,340 ▼2.8 2,216 2.5 18,997 12.7
7 7,353 48.6 5,557 ▼6.6 2,101 2.8 17,173 7.8
8 6,834 28.8 5,535 3.2 2,345 22.5 16,871 12.3
9 8,231 29.1 6,063 ▼0.4 2,154 6.2 18,815 13.5
10 7,377 9.9 6,320 9.8 2,373 24.9 18,118 7.2
11 7,460 4.0 5,935 0.1 2,295 26.5 18,290 6.3
12 7,738 8.3 6,220 10.8 2,348 22.4 18,614 9.4
2021年度(4~12月) 67,907 22.5 54,396 1.2 20,475 15.7 163,594 9.8
2021年
(1-12月)
88,952 15.9 71,367 3.7 26,367 8.9 214,769 5.1

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
豊洲4-2街区開発計画A・B棟は鹿島で7月着工
S造、18階・15階の2棟構成、延床約13.6万平米

IHIと三菱地所による大規模複合開発プロジェクトの「豊洲4-2街区開発計画」(東京都江東区豊洲2、3丁目地内4-2街区の敷地面積約1万9,493平方メートル)に2棟構成の総延べ床面積約13万6,500平方メートルの施工を鹿島に決定し、今年7月に着工し、25年6月完成をめざす。
A棟(建築主、三菱地所)の建築規模はS造、地下1階・地上18階建て、延べ床面積約4万7,300平方メートル、 高さ約100メートル。用途は事務所、駐車場。設計は三菱地所設計が担当。
B棟(建築主、IHI・三菱地所)はS造、地下1階・地上15階建て、同8万9,200平方メートル、同80メートル。用途はオフィス、インキュベーションオフィス、シェア企業寮、飲食店・物販店舗、駐車場など。設計は鹿島が担当。
A棟とB棟の間に大屋根を設けた広場を整備し、広場を取り囲むように商業施設を配置する。 2階レベルでは、大屋根広場を囲むように歩行者デッキを整備し、晴海通りに架かる歩行者デッキと接続される。本プロジェクト地は「ららぽーと豊洲」の隣接地であり、産業支援施設、商業施設、文化・交流施設といった多様な都市機能を導入し、新たなビジネスを創出・発信する交流拠点の形成を図ることになる。

連載/あの人、この人(23)
杉本直幹氏の<直感力>人生

かつての鉄骨加工業のルーツに鍛冶業からが多く、<おできと鍛冶屋は大きくなると潰れる>と自嘲ぎみに語り、規模拡大を戒める気風があった。現今の鉄骨ファブリケーターは、高学歴の経営者や技術・技能資格を有した社員による大臣認定工場になり、鉄骨建築界での役割が大きくなっている。
1964年の東京五輪特需から高度経済成長を迎え、建築需要の増加に伴い鉄骨加工に新規参入が増えるに従い、建設業許可業種(鋼構造物工事業)の小規模・零細業者と、建築鉄骨製作(鉄骨ファブリケーター)とに区別するため73年7月に全国鉄構工業連合会(全構連)を設立した。
中堅規模以上の唯一の全国団体として歩み始めたものの、近代的経営には程遠く、業界内で言われる<KDD経営>が罷り通っていた。かつてのKDD(国際電信電話)の略称でなく、<勘・度胸・どんぶり勘定>の隠語である。多くの工場では原価意識や生産効率など希薄で、受注業種としての不安定な仕事量のため、鉄骨建築の元請け(建設会社)と下請けの隷属関係に甘んじていた。
全構連による意識改革による<工場認定制度>を推進するにしたがい原価意識、生産効率に目覚めてきたものの需給増減の影響を受け、毎年構会員が十数社倒産する状態が続いた。鉄骨需要が96年度の1,030万トン以降に下降線を辿り、倒産・廃業が激増した。2000年代になっても淘汰は続き、鉄構協組理事長や工業会会長の企業倒産や民事再生、廃業が相次ぐ事態にまでになる。
前置きが長くなったが、今回登場する杉本直幹氏は杉本鉄工・社長(後にアイエスに社名変更)で、愛知県鉄構工業協同組合(以下、愛知鉄構協組)理事長や全構連副会長を務め、親しい設計者やゼネコン技術者から「直幹(ちょっかん)さん」と呼ばれ、気さくでダンディーなひと。また、常に大儀を重んじ、全構連や愛知鉄構協組の事業運営に新風を巻き起こしてきたひとでもある。
私の全構連や鉄骨ファブへの取材は、溶接業界紙のW新聞社・東京支社に勤務の77年春からで、高圧ガス(酸素・アセチレン・炭酸)、溶接機・溶断機器、溶接ワイヤなどの消費量が造船・橋梁・重機よりも多い鉄骨業界の動向に関心を持って取材をしていた。東海地区を担当し、名古屋出張の都度、愛知鉄構協組(中区・金山)を訪問し、K事務局長や理事・組合員らと接触を図っていた。
杉本直幹氏の経歴は、29年4月14日生まれ、愛知県出身。52年日本大学理工学部建築科卒、同年T工務店入社、56年杉本鉄工入社、59年専務取締役を経て、84年社長に就任。81年愛知県鉄工協組合理事長、85年全構連副会長、建設大臣賞受賞、92年黄綬褒章受章など。
82年春にK出版・大阪支社を興し、頻繁に名古屋入りしたことにより、杉本理事長(以下、杉本氏)とはひと回り上ながら親しくして頂き、近鉄(難波-名古屋)を通勤圏のように通った。杉本氏が「ちょっかんさん」と呼ばれるには<直感力>に繋がるもので、それは常に思考・洞察力があってのこと。
こんな逸話もある。T工務店勤務での話で、「担当したビル工事現場で火災が起きた。断熱材に溶接の火花(スパッタ)で発火。人身事故は無かったが延焼となり大幅な工期遅れとなり、大損害となった。現場に多くの業者が入り、互いに連絡・調整なしで作業をすると事故につながる」との体験談を聞いた。その教訓と潔癖症もあってか、驚くほど事務所内や工場内の環境整備、整理整頓をされていた。
86年に全構連の副会長になって間もない愛知鉄構協組総会の席上で、「鉄骨単価のガイドライン化(最低単価設定)」策定案を発表した。当時は、鉄骨需要増と鋼材値上げにもかかわらず受注単価の低迷が続き、その打開策から打ち出した<直観的>な政策だった。建設業界紙らが一斉に大きく報道したため、全構連・事務局サイドが談合疑惑になると危惧もあって、愛知鉄構協組に対して「(ガイドラインは)鉄骨価格の談合として公取(公正取引委員会)に睨まれる」と諫められ、組合員の中からも「単価は、それぞれの企業事情もある」と反対論もあり、ガイドライン価格は沙汰闇となる。
次の直観力は、全国に先駆け「見積もり物件報告制度」の実施を理事会で承認した。500トン以上の物件報告と積算共有制度。見積もりが企業秘密だったのを公にすることで競合相手や企業数が分かり、無駄な競合や積算業務を排除することができた。この施策は、後に全構連でも1,000トン以上の物件を対象に各鉄構組合・工業会事務局から全構連本部に報告する物件報告制度となった。
この時期、大手ゼネコンは韓国・タイなどの鉄構工場に大臣認定を取得させた輸入鉄骨が増えだしたことを憂慮し、杉本氏とK専務理事の発案で、海外鉄骨の実態を知るために「韓国鉄構業界視察団」の企画を私に委託された。87年に中部4県組合から総勢48名参加し、全構連中部支部長のU静岡鉄構協組理事長を団長に現代重工業・鉄構事業部や中規模ファブ数工場を見学。韓国鉄骨需要量や欧米輸出と日本市場への取り組み、大手と中規模ファブとの技術・技能・賃金格差や日本との規格・基準の違いなどを調査し、大方は「韓国ファブ、恐れずに足りず」の感想のようだった。
私は88年に東京本社勤務となり、全構連副会長として上京する杉本氏と肝胆相照らす仲として、よく飲食を共にした。名古屋の錦や栄4丁目女子大小路の繁華街を伴にし、杉本氏馴染の高級クラブでは「おとうさん」と呼ばれ、好々爺的な存在だったが、銀座では<夜の紳士ぶり>を発揮し、グランドピアノを弾き、カラオケではカンツォーネなど朗々と歌うなど多才ぶりをみせた。
杉本鉄工は92年に本社社屋を新築し、社名を「アイエス」に変更する。この頃から都内の工事物件が増え、営業を兼ね頻繁に上京する。息の合った設計者ら建築関係者とプライベートで中国・韓国旅行でリフレッシュするときも同行した。きっぷのいい杉本氏だが「遊んでいても公私のケジメだけは付けている」と言って、私的な交際には会社にも組合にも負担させない主義を貫いていたようだ。
杉本氏の構想<中部はひとつ>でもあった中部鉄構工業協同組合連合会(中部鉄構連)を設立する。その「中部鉄構連設立記念シンポジウム」の企画も私に委託された。K出版・T技術編集部が担当し、92年9月3日名古屋市内のホテルで開催。来賓、建築行政、設計・ゼネコン・鋼材商社ら関係者、4県組合員など450名以上が聴講し、華やかに<中部鉄構連合の旗揚げ式>となった。
この話は以前にも触れたが、司会はO氏(愛知工業大学教授、基調講演にI氏(大阪大学名誉教授)、パネラーにはO氏(名古屋工業大学教授)、W氏(I建築設計事務所取締役)、G氏(愛知県建築部建築指導課主査)、F氏(S建設技術本部副本部長)、T氏(S製鉄技術開発本部建材開発技術部専門部長)の錚々たるメンバーとなった。
パネラーの杉本氏は中部鉄構連会長として講演した。<(前略)バブル経済崩壊による極端な鉄骨単価切り下げに対応するには、建築界の重層構造の下位と言え、経営者は原価意識を持って企業努力をしてほしい。品質保証に相応しい適正価格維持のため、しっかりした経営姿勢で臨み、「叩けば幾らでも単価が下がる」と思われないよう襟を正す(後略)>と述べ、鉄骨市況は専業ファブの多い中部圏がリードするとの心構えを訴えた。
私は98年3月にK出版を退職し、鉄骨構造技術者団体の専務理事を任され、杉本氏とは爾来接触する機会がなくなる。この頃から鉄骨需要が年々下降線を辿る。名門・老舗と言われ、各県鉄構協組や工業会を支えてきた理事長・会長企業などが業界退場する情報を聴くたびに胸が痛んだ。
杉本氏のアイエスにも厳しい波が押し寄せていた。インターネット情報では、06年3月に三重県木曽岬町のT社(旧T鉄鋼)に資金支援を仰ぎ、17年11月にT社に吸収合併し、新会社はT・A・Gとなる。旧アイエスの本社工場はT・A・G鉄鋼事業本部として操業されている。
ダンディムズの杉本氏。その持ち前の<直観力>と<決断力>では後継者を育てられなかったことが悔やまれる。だが、鉄骨ファブ業界には大きな足跡を残したひとであることは確かである。

【中井 勇】