スノウチニュース<№203> 令和3年9月


【鉄骨需要月別統計】
7月鉄骨需要量は37万5,550トン(前年同月比5.4%増)
21年1~7月は260万4,200トン(前年同期比8.3%増)

国土交通省が8月31日発表した「建築物着工統計調査」の2021年7月着工総面積は10,664千平方メ―トル(前年同月比9.9%増)となり、前年同月比で5ヵ月連続増となった。10,000千平方メートル超えも5ヵ月連続となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が661千平方メートル(同2.3%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽民間建築物は10,003千平方メートル(同10.8%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
▽用途別は、▽居住建築物は6,582千平方メートル(同12.6%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽非居住建築物は4,082千平方メートル(同5.9%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造が3,701千平方メートル(同4.5%増)となり、同7ヵ月連続増となった。▽SRC造が109千平方メートル(同158.8%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
一方、▽RC造が2,024千平方メートル(同12.7%増)となり、同1ヵ月で増加となった。▽W造が4,766千平方メートル(同11.9%増)となり、同4ヵ月連続増となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は37万0,100トン(前年同月比4.5%増)となり、同7ヵ月連続増となった。SRC造は5,450トン(同158.8%増)となり、同2ヵ月連続増となった。鉄骨造計では前月比10.8%減の37万5,550トン(前年同月比5.4%増)となった。
なお、21年(1~7月)では、S造256万1,000トン(前年同期比8.8%増)、SRC造4万3,200トン(同15.0%減)となり、鉄骨造合計では260万4,200トン(同8.3%増)となった。21度(4~7月)では、S造155万7,700トン(前年同期比9.0%増)、SRC造2万5,600トン(同16.8%減)となり、鉄骨造合計では158万3,300トン(同8.9%増)となった。

20年7月-21年7月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
10 328,400 -10.7 5,350 -2.9 333,750 -1.8
11 300,000 -14.5 14,300 208.6 314,300 -11.6
12 338,000 -16.1 11,300 109.7 349,300 -14.4
2021/1 318,300 19.6 4,800 -10.0 323,100 19.0
2 308,300 2.8 9,900 -4.9 318,200 2.5
3 376,700 3.6 2,900 -41.4 379,600 2.9
4 387,600 8.3 6,000 -39.7 393,600 8.5
5 387,600 10.1 5,400 -62.6 393,000 7.4
6 412,400 13.0 8,750 106.2 421,150 14.1
7 370,100 4.5 5,450 158.8 375,550 5.4
暦年計(21/1~7) 2,561,000 8.8 43,200 -15.0 2,604,200 8.3
年度計(21/4~7) 1,557,700 9.0 25,600 -16.8 1,583,300 8.9

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連7月総受注額約9,184.6億円(前年同月比5.7%減)
民間工事は6,402億3,300万円(前年同月比0.0%)

日本建設業連合会(日建連)が8月27日に発表した会員企業95社の2021年7月受注工事総額は9,184億6,300万円(前年同月比5.7%減)となり、前年同月比で7ヵ月ぶりの減少となった。うち民間工事が6,402億3,300万円(同0.0%)となった。官公庁工事が2,729億2,500万円(同11.5%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少となった。
国内工事が9,134億4,600万円(同3.9%減)となり、同10ヵ月ぶりの減少となった。民間工事の6,402億3,300万円のうち、▽製造業が1,872億7,900万円(同26.3%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽非製造業が4,529億5,400万円(同7.9%減)となり、同7ヵ月ぶりの減少となった。
官公庁工事の2,729億2,500万円のうち、▽国の機関が1,553億8,400万円(同23.6%減)となり、同14ヵ月ぶりの減少となった。▽地方の機関が1,175億4,100万円(同11.8%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽その他が2億8,800万円(同81.5%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽海外工事が50億1,700万円(同79.4%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。
21年度4~7月の受注工事総額が3兆7,647億5,500万円(前年同期比13.3%増)となり、▽民間工事額が2兆5,059億2,700万円(同14.3%増)、▽官公庁工事が1兆1,693億5,600万円(同10.2%増)、▽海外工事が804億6,700万円(同61.0%増)となった。
一方、7月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が469億2,900万円(前年同月比26.3%減)となり、前年同期比では1ヵ月で減少となった。▽東北が593億3,800万円(同52.2%減)となり、同3ヵ月連続減となった。▽関東が4,704億4,000万円(同35.0%増)となり、同7ヵ月連続増となった。▽北陸が175億4,100万円(同46.5%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
▽中部が1,252億5,500万円(同74.5%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽近畿が855億1,400万円(同61.8%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽中国が254億9,100万円(同42.2%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽四国が128億8,500万円(同17.0%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽九州が700億6,100万円(同24.0%増)となり、同3ヵ月連続増となった。


7月粗鋼生産801万トン(前年同月比32.5%増)
4~7月粗鋼生産3,235.5万トン(前年同期比34.0%増)
6月普通鋼建築用54.1万トン(前年同月比4.0%減)

日本鉄鋼連盟は8月23日に発表した2021年6月の銑鉄生産は590.2万トン(前年同月比34.9%増)となり、前年同月比5ヵ月連続増。粗鋼生産は800.7万トン(同32.5%増)となり、同5ヵ月連続増となった。なお、粗鋼生産の4月~7月は3,235.5万トン(前年同期比34.0%増)となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が605.0万トン(同37.1%増)となり、同5ヵ月連続増。▽電炉鋼が195.7万トン(同20.1%増)となり、同5カ月連続増となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が612.1万トン(同25.6%増)となり、同5ヵ月連続の増加。▽特殊鋼が188.6万トン(同61.0%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
▽熱感圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は715.9万トン(同33.7%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽普通鋼熱感圧延鋼材の生産は555.8万トン(同24.5%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽特殊鋼熱感圧延鋼材の生産は160.1万トン(同80.0%増)となり、同7ヵ月連続増となった。
一方、6月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は54万1,292トン(同4.0%減)となった。うち▽非住宅が42万0,966トン(同7.5%増)となり、▽住宅が12万0,326トン(同30.3%減)となった。
なお、21年4~6月の建築用は156万3,399トン(前年同期比12.3%増)となった。うち▽非住宅が118万1,438トン(同20.5%増)となり、▽住宅が38万1,961トン(同7.2%減)となった。


6月溶接材料の出荷量1万8,997トン(前年同月比12.7%増)
21年(1~6月)の出荷量10万6,888トン(前年同期比1.2%増)

日本溶接材料工業会が発表した2021年6月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万9,285トン(前年同月比17.5%増)の前年同月比で3ヵ月連続増加となり、出荷量は1万8,997トン(同12.7%増)の同3ヵ月連続増となった。在庫量は1万5,799トン(同22.7%減)となり、同8ヵ月連続減となった。
生産量の主な品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,947トン(同58.7%増)の同3ヵ月連続増。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,488トン(同3.8%減)の同18ヵ月連続減。▽被覆アーク溶接棒が2,432トン(同14.7%増)の同2ヵ月連続増となった。その他を含む生産量計では1万9,285トン(同17.5%増)となり、同2ヵ月連続増となった。
出荷量の主な品種は▽SWが7,981トン(同43.0%増)となり、同3ヵ月連続増。▽FCWが6,340トン(同2.8%減)の同3ヵ月ぶりの減少。▽溶接棒が2,216トン(同2.5%増)の同3月連続増となった。その他を含む出荷量計では1万8,997トン(同12.7%増)の同3ヵ月連続増となった。
在庫量の主な品種は▽SWが5,577トン(同23.3%減)の同6ヵ月連続減。▽FCWが5,623トン(同21.4%減)の同7ヵ月連続減。▽溶接棒が2,300トン(同26.9%減)の同10ヵ月連続減となった。その他を含む在庫量計では1万5,799トン(同22.7%減)の同8ヵ月連続減となった。
21年(1~6月)の生産量は10万4,612トン(前年同期比1.9%減)となり、出荷量は10万6,888トン(同1.2%増)となった。

20年6月-21年6月 溶接材料月別実績表

生産量

単位/トン

年/年度 ソリッドワイヤ 前年比    % フラックス入りワイヤ 前年比    % 被 覆  溶接棒 前年比    % 合 計 前年比    %
2020年 6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
9 57,17 ▼36.6 6180 ▼22.4 1775 ▼26.7 15,740 ▼29.6
10 6,997 ▼22.9 5,829 ▼27.9 1,728 ▼25.6 17,120 ▼23.5
11 7,528 ▼16.6 5,855 ▼20.3 1,845 ▼9.2 17,429 ▼17.8
12 6,637 ▼24.1 5,297 ▼27.1 1,660 ▼30.0 16,014 ▼25.3
2021年 1 6,028 ▼18.5 5,346 ▼20.2 1,803 ▼13.5 15,419 ▼17.9
2 6,781 ▼8.1 5,644 ▼16.9 1,982 2.2 16,888 ▼8.0
3 7,372 ▼3.6 5,788 ▼20.2 2,157 ▼7.0 17,809 ▼9.2
2021年度 4 7,426 4.2 6,047 ▼10.7 2,145 0.0 18,294 ▼2.3
5 7,329 32.8 5,302 ▼0.7 1,994 15.5 16,917 14.7
6 7,947 58.7 6,488 ▼3.8 2,432 14.7 19,285 17.5
2021年度(4~6月) 22,702 26.6 17,837 ▼5.4 6,571 9.6 54,496 9.2
2021年(1-6月) 42,883 6.3 34,615 ▼12.4 12,513 1.4 104,612 ▼1.9

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

 

出荷量

単位/トン

年/年度 ソリッドワイヤ 前年比    % フラックス入りワイヤ 前年比    % 被 覆 溶接棒 前年比    % 合 計 前年比    %
2020年 6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
9 6,374 ▼28.3 6,089 ▼19.5 2,028 ▼14.3 16,579 ▼23.2
10 6,710 ▼21.2 5,757 ▼26.1 1,900 ▼11.0 16,897 ▼23.2
11 7,171 ▼10.5 5,929 ▼18.9 1,814 ▼11.7 17,209 ▼15.0
12 7,143 ▼16.9 5,615 ▼25.1 1,918 ▼23.9 17,022 ▼21.3
2021年 1 6,932 ▼1.0 5,878 ▼15.3 1,838 ▼17.4 17,053 ▼9.1
2 6,847 ▼1.1 5,689 ▼12.7 1,988 ▼2.2 16,851 ▼5.4
3 7,266 ▼1.5 5,404 ▼21.8 1,907 ▼10.4 17,271 ▼8.0
2021年度 4 7,996 20.7 6,561 1.4 2,497 32.5 19,700 12.6
5 6,937 24.6 5,865 2.8 2,146 6.0 17,016 6.7
6 7,981 43.0 6,340 ▼2.8 2,216 2.5 18997 12.7
2021年度(4~6月) 22,914 28.9 18,766 ▼1.4 6,859 13.0 55,713 10.8
2021年(1-6月) 43,959 12.5 35,737 ▼9.3 12,592 1.1 106,888 1.2

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
西新宿一丁目地区プロジェクトは大成・竹中JV
S造・SRC造、23階建て、延床9.7万平米

明治安田生命相互の「西新宿一丁目プロジェクト」(東京都新宿区西新宿1-9-1~9)の建設は、JR・小田急・東京メトロの新宿駅西口ロータリー前の明治安田生命新宿ビル、同別館、同第三ビル(跡地)、第一スカイビル、高倉第二ビル、永和ビル(同)、西新宿一丁目KSビル(同)を一体に開発する。
建設する敷地面積約6,295平方メートル、建築面積約3,819平方メートル。建築規模はS造・一部SRC造、地下4階・地上23階建て、延べ床面積約9万6,902平方メートル。地上高さ約126メートル(最高129メートル)の超高層複合ビルとなる。
同ビル建設では、森ビルがプロジェクトマネジメントで参画し、完成後もプロパティマネジメント業務を受託し、オフィスおよび店舗のテナントリーシング、ビルの管理・運営業務の支援を行う予定。 設計は日建設計、施工は大成・竹中JV。 8月1日に着工、2025年11月に完成予定。
施設規模は、地下1階~地上1階に商業施設(延べ床面積約2,805平方メートル)、2階に賃貸ホール(同330平方メートル)、4階~22階にオフィス(同5万1,150平方メートル/1フロア2,640平方メートル超)の配置となる。そのほかに子育て支援施設や駐車場も設けられる。
新宿駅西口は「新宿副都心建設計画」に基づき、淀橋浄水池跡に新都心6号地として開発され、68年に超高層の「京王プラザホテル新宿」が建設されてから東京都庁をはじめ超高層ビルが林立する副都心となる。明治安田生命新宿ビルは新宿駅前に面した好立地に61年に建設され、17年5月に閉館した築60年のビルが超高層化に建て替えられる。
新宿駅西口前にはJR東日本、小田急電鉄、東京メトロによる48階建ての超高層複合ビルの駅前再開発(22年着工、29年完成)も計画されており、新宿の新たなランドマークとなる。


連載/あの人、この人(17)
全構連創成期2人の功労者

鉄骨ファブリケーター(鉄骨ファブ)の全国鉄構工業協会(略称・全構協)は、会員47団体(都道府県の鉄構協同組合・鉄構工業会など)と賛助会員35社で運営され、会員団体の組合・会員(鉄骨ファブ)2,210社(2021年6月現在)が加入する一般社団法人。創設以来48年目である。
この全構協の前身は、1973年7月に任意団体で設立した全国鉄構工業連合会(同・全構連)。64年東京五輪前後の高度成長によって、鉄骨建築の需要も増大し、無組織の鋼構造物工事業者らが70年代に入って、鉄骨製作を主体とする鉄骨ファブにより協同組合や工業会を組織化しはじめる。この動向にK製鉄の建材メーカー・S社長が全国組織化を提唱し、73年に全構連が設立された。
73年の出来事には、▽1月、ベトナム和平協定調印▽4月、米国ウォーターゲート事件▽7月、自民党に青嵐会発足、日航機乗っ取り事件▽8月、金大中拉致事件▽10月、第4次中東戦争勃発▽11月、オイルショックによるトイレットペーパー騒動。この年の粗鋼生産は過去最高の1億2,000万トン記録し、鉄骨需要量も950万トンの高水準を誇っていた。
そうした情勢の中で全構連が産声を上げた。当時、構成会員数4,678社から年ごとに減少し、80年は4割減の2,813社となる。景気回復と共に3,000社台を維持した。76年2月に晴れて社団法人化。81年10月、経済産業省・国土交通省との共管。82年4月、自主認定「鋼構造物製作工場認定制度」が建設省告示第1103号に準拠するとして「建設大臣認定工場」制度として認められる。
2000年7月、全構協に組織変更し、事業活動も充実した団体となる。13年4月、公益法人制度改正により一般社団法人化し、現在に至る。
全構協までの記述が長くなったが、全構連創成期を地方鉄構協組の専務理事・事務局長として支え、かつ全構連理事としても多大な寄与をした足立金志、川原登志雄の両氏の紹介。

まず足立金志氏の紹介。兵庫県鉄工建設業協同組合(兵庫組合)の専務理事で、かつ全構連近畿支部の重鎮。足立氏と出会ったのは、79年夏に溶接業界紙のW新聞大阪本社に異動になってすぐに同組合にあいさつに出向いた時で、足立氏は開口一番に「わしらの業界は溶接施工がメイン。溶接業界から鉄骨業界をぜひ取材してください。訪問先が必要な時は組合員を紹介する」と歓迎された。足立氏のデスクに常にピース缶を置く愛煙家。ベレー帽をかぶり芸術家のような風貌だった。
兵庫組合事務所は神戸・三宮駅から近い、一等地の中央区磯上通に面した「テッケンビル」4階(事務所)、9階(会議室)にあり、同ビルは足立氏が発案し、組合員有志が出資した法人企業が76年9月に建てた機械式駐車場付の9階建てビル。これには他府県組合が羨望する事務所であった。
事務所の中は、中央に理事長デスクを置き、事務局長、女性職員、ビル管理事務員らの大部屋と隣接の部屋が専務理事室であり、訪問時は専ら専務室での接見となった。理事長のY氏も頻繁に訪れ、理事会議題や事業活動などの打ち合わせを理事長と専務理事によって進められていた。
近畿以西では足立氏の影響力も大きく、足立氏の知遇で取材や購読の業績は向上した。82年2月にW新聞社を退社し、記者仲間の鉄鋼業界紙のTさんが前年創刊した鉄構業界紙のK出版に誘われ、K出版大阪支社を立ち上げる。この時も足立氏は、「君は、溶接よりも鉄構専門紙の方がいい。これからも全面協力する」ともろ手を挙げて賛成してくれ、その通りになった。
足立氏の支援で、創刊間もない鉄構業界紙のために近畿をはじめ東海、中国、四国の鉄構協同組合などの支部会議などに橋渡し役をして頂き、急速的に普及拡大した。また、全構連共済制度の担当理事の関係もあり、錆止め(鉛丹)指定塗料のD塗料や総代理店のD社を紹介してくれるなど大いに助かった。その半面、「まだ、県内に半分以上が非組合員(アウトサイダー)。彼らがなぜ組合加入しないかの本音を調べてほしい」などの頼みもあり、アウトサイダーの取材をすることもあった。
足立氏とは個人的な相談者でもあった。東灘区御影のご自宅にも伺ったこともあり、随分とお世話になったものの、そのお返しもできなく東京本社に異動となった。それでも組合機関紙の「テッケンニュース」(タブロイド判、通常8ページ、隔月刊)を復刊し、定期発行を遵守したのが唯一の寄与。足立氏は書道家で、常に毛筆で手紙・はがきをしたため、年賀状も裏表印刷せず600枚以上を書く人。また、知事・市長選などになると関係者に頼まれ、選挙プランナー(参謀人)として奔走もしていた。
足立氏は全構連創成期の羅針盤として尽力し、理事(80年度の1期)としての功績も高く、特に収益活動のメインである共済制度(生命共済、共同購入など)や各種資格取得につながる教育制度〈鉄構管理技術者など〉の貢献である。「君。組織力はすべからく、人材と資金だよ」と言い、そのための事業収益や人材育成(資格取得)が組織拡大につながるとの信念だった。
私もリタイアし、年賀状交換だけになった。06年の正月、足立氏が米寿を記念して毛筆の手づくり小冊子「変体仮名」を贈られてきた。それ以来、残念だが足立氏とは音信が途絶えた。

もう一人の川原登志雄氏は、愛知県鉄構協同組合(愛知組合)の事務局長(後に専務理事)で、足立氏より若干年下で性格も風貌も真反対のタイプ。両氏ともアルコールを嗜まないものの、組合員同士の結束を図るため理事会や各種会合などの後、懇親会の場を設けるなど共通点は多かった。
川原氏は戦中、満州国とソ連邦の国境の海拉爾(ハイラル)要塞の守備隊兵だった。「44年に南方に転属したため、ソ連軍侵攻後のシベリア抑留を免れた」と語り。また、「軍隊は軍律だが、生死を分けると上官も一兵卒もない。その人間性をまざまざと見てきた」と、人間の悍ましさも吐露していた。
復員後、名古屋市役所の職員として福祉・民生子ども関係に従事し、「理不尽な民生委員や安直に生活保護受給を迫る者などさまざまな人間性を見た。定年後は団体職員で役立ちたかった」との思いと、その反骨精神をかったS理事長に請われ事務局長となる。
川原氏の先見性を発揮したのは、82年大臣認定工場制度となりアウトサイダーが加入することを見込んで加入金制度(預託金)を設けた。川原氏は「預託金制度に反対もあった。今まで努力してきた組合員と新規組合員が一緒の条件で認定工場を取得するには、それなりの負担は必要だし、公平なやり方」との川原論法が理事会を通った。預託金負担にもかかわらず予想以上の新規加入となった。
愛知組合事務局は地の利の良いJR・名鉄・地下鉄の金山駅前の長谷川ビル9階。眺望のいい事務局内での平常光景は、川原氏は巧みに邦文タイプライターで書類作成し、年配女性が経理事務を切り盛りする。若年職員Fさんは認定業務などを担当し、女子職員は一般事務と明るく活気ある雰囲気。後に隣接の学習塾が引っ越すと、足立氏はただちに賃貸契約し、専用会議室にするなど「いつ組合員が事務局に訪れても対応できる体制づくりに努力している」を信条に事務所の機能の効率化を図る。
川原氏の信条は「(組合員同士が)一緒にメシを食い気心が分かれば、ムダな競合が無くなり、適正単価で市況が保てられる」と言い、会合の後は懇親会を催してきた。そんな川原氏とは本音で付き合える関係を築いた。大阪時代も東京勤務になっても取材や企画依頼では二つ返事で応えてくれた。
海外鉄骨問題もあって川原氏と協議し、韓国鉄骨ファブの視察を全構連中部支部とK出版大阪支社主催で87年6月「韓国鉄構視察団」を企画。東海4組合から総勢47名の大視察団を結成。蔚山市の現代重工業・海洋鉄構工場や釜山市郊外の中堅鉄構ファブ見学やソウルでの韓国鉄構業界人との懇談会が首尾よくいき、韓国鉄構業界の実情や技術水準、欧米・アジア進出の実態を知った。
その4年後、92年9月名古屋市内ホテルで東海4組合による「中部鉄構工業協同組合連合会」(後に発展解散)設立記念のシンポジウムを企画し、予想以上の成果を上げた。こうした企画は、その後、全構連、全構協本部・支部でもこれだけの規模のシンポジウム企画は無かった。
川原氏は全構連理事(81年度の1期)の功績は、工場認定取得のため愛知組合はもとより中部支部のけん引役として東奔西走。持ち前の信条から<歯に衣着せぬ>対応で、認定審査委員・専門調査委員らへの工場評価の平準化・公平性に厳しく要求した。
川原氏は「この業界はゼネコンの言いなり、自分さえ良ければの身勝手さが受注価格に影響する」と言い、78年に「ロボットがトン3万円フップ」と訴えるポスターを作成し、他県組合らがド肝を抜く。85年には適正単価維持の「価格ガイドライン設定」を業界紙で公表したことが、全構連本部は価格協定(談合)として問題視されるなど物議もあった。それでも検査技術者の教育・養成問題や検査制度や検査パトロールなど率先するなど鉄骨ファブ向上には並々ならぬ尽力してきた。
常々、川原氏は「わしは酒もタバコもやらんで、長生きする」と言っていたが古希過ぎての死去。葬儀は川原家の菩提寺本堂で盛大に執り行われ、多数の組合員によって見送られた。

【中井 勇】