スノウチニュース<№201> 令和3年7月
【鉄骨需要月別統計】
5月鉄骨需要量は39万3,000トン(前年同月比8.5%増)
21年1~5月は180万7,500トン(前年同月比7.6%増)
国土交通省が6月30日発表した「建築物着工統計調査」の2021年5月着工総面積は10,422千平方メ―トル(前年同月比9.4%増)となり、前年同月対比で3ヵ月連続増となった。10,000千平方メートル超えも3ヵ月連続となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が373千平方メートル(同8.8%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽民間建築物は10,049千平方メートル(同9.4%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
▽用途別は、▽居住建築物は6,145千平方メートル(同12.7%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽非居住建築物は4,277千平方メートル(同4.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造が3,876千平方メートル(同10.1%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽SRC造が108千平方メートル(同62.6%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減となった。
一方、▽RC造が1,997千平方メートル(同5.8%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽W造が4,379千平方メートル(同16.0%増)となり、同2ヵ月で連続増となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は38万7,600トン(前年同月比10.1%増)の前月と同量となり、同5ヵ月連続増となった。SRC造は5,400トン(同62.6%減)となり、同5ヵ月連続減となった。鉄骨造計では前月比0.2%減の39万3,000トン(前年同月比7.4%増)となった。
なお、20年(1~5月)では、S造が177万8,500トン(前年同期比8.8%増)、SRC造が2万9,000トン(同34.8%減)となり、鉄骨造合計では180万7,500トン(同7.6%増)となった。
20年5月-21年5月 鉄骨需要量の推移
年/月 | S造(TON) | 前年比(%) | SRC造(TON) | 前年比(%) | 鉄骨造計(TON) | 前年比(%) |
5 | 352,000 | -6.4 | 13,800 | 88.2 | 365,800 | -4.6 |
6 | 364,800 | -14.8 | 4,250 | 12.9 | 369,050 | -14.6 |
7 | 354,300 | -25.5 | 2,100 | -67.8 | 356,400 | -26.1 |
8 | 291,400 | -30.8 | 2,700 | 7.8 | 294,100 | -30.6 |
9 | 336,800 | -3.3 | 12,550 | 64.8 | 349,350 | -1.8 |
10 | 328,400 | -10.7 | 5,350 | -2.9 | 333,750 | -1.8 |
11 | 300,000 | -14.5 | 14,300 | 208.6 | 314,300 | -11.6 |
12 | 338,000 | -16.1 | 11,300 | 109.7 | 349,300 | -14.4 |
2021/1 | 318,300 | 19.6 | 4,800 | -10.0 | 323,100 | 19.0 |
2 | 308,300 | 2.8 | 9,900 | -4.9 | 318,200 | 2.5 |
3 | 376,700 | 3.6 | 2,900 | -41.4 | 379,600 | 2.9 |
4 | 387,600 | 8.3 | 6,000 | -39.7 | 393,600 | 8.5 |
5 | 387,600 | 10.1 | 5,400 | -62.6 | 393,000 | 7.4 |
暦年計(21/1~5) | 1,778,500 | 8.8 | 29,000 | -34.8 | 1,807,500 | 7.6 |
年度計(21/4~5) | 775,200 | 10.0 | 11,400 | -52.0 | 786,600 | 8.0 |
(国土交通省調べ)
【建築関連統計】
日建連5月総受注額約7,392.9億円(前年同月比10.7%増)
民間工事は4,777億5,000万円(前年同月比5.0%増)
日本建設業連合会(日建連)が6月29日に発表した会員企業95社の2021年5月受注工事総額は7,392億8,500万円(前年同月比10.7%増)となり、前年同月比で5ヵ月連続増となった。うち民間工事が4,777億5,000万円(同5.0%増)となり、同5ヵ月連続増となった。官公庁工事が2,575億2,200万円(同25.5%増)となり、同9ヵ月連続増となった。
国内工事が7,361億1,600万円(同11.2%増)となり、同8ヵ月連続増となった。民間工事の4,777億5,000万円のうち、▽製造業が872億8,700万円(同27.9%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽非製造業が3,904億6,300万円(同17.0%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
官公庁工事の2,575億2,200万円のうち、▽国の機関が2,040億3,300万円(同129.2%増)の大幅増となり、同12ヵ月連続増となった。▽地方の機関が534億8,900万円(同54.0%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽その他が8億4,400万円(同50.2%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽海外工事が31億6,900万円(同44.9%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。
21年度4~5月の受注工事総額が1兆4,822億7,400万円(前年同期比11.6%増)となり、▽民間工事額が9,655億4,600万円(同9.5%増)、▽官公庁工事が4,932億3,700万円(同17.4%増)、▽海外工事が210億6,200万円(同112.2%増)となった。
一方、5月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が290億5,000万円(前年同月比4.6%減)となり、前年同期比で3ヵ月連続減となった。▽東北が553億1,800万円(同6.3%減)となり、同5ヵ月ぶりの減少となった。▽関東が3,280億7,800万円(同22.4%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽北陸が174億2,800万円(同20.1%減)となり、同1ヵ月で減少となった。
▽中部が430億8,900万円(同60.0%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽近畿が1,026億0,800万円(同16.1%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽中国が610億8,000万円(同139.7%増)の大幅増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽四国が151億8,500万円(同109.3%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽九州が842億8,200万円(同327.4%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加となった。
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5月粗鋼生産842.2万トン(前年同月比42.2%増)
4月普通鋼建築用51.6万トン(前年同月比25.9%増)
日本鉄鋼連盟は6月22日に発表した2021年5月の銑鉄生産が612.4万トン(前年同月比39.1%増)となり、前年同月比で3ヵ月連続増となった。粗鋼生産が842.2万トン(同42.2%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が633.2万トン(同47.2%増)となり、同3ヵ月連続増。▽電炉鋼が209.0万トン(同29.1%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
鋼種別生産では、▽普通鋼が646.1万トン(同35.0%増)となり、同3ヵ月連続増。▽特殊鋼が196.1万トン(同72.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産 は707.8万トン(同36.3%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は552.1万トン(同28.3%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は155.7万トン(同75.0%増)となり、同5ヵ月連続増となった。
一方、4月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は51万5,974トン(同25.9%増)となった。うち▽非住宅用が36万3,983トン(同25.5%増)となり、▽住宅用が15万1,991トン(同26.9%減)となった。
なお、21年(1~4月)の建築用は193万7,568トン(前年同期比9.9%増)となった。うち▽非住宅が142万1,382トン(同13.1%増)となり、▽住宅が51万6,186トン(同18.9%増)となった。
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4月溶接材料の出荷量1万9,700トン(前年同月比12.6%増)
21年(1~4月)の出荷量7万0,875トン(前年度比2.7%減)
日本溶接材料工業会が発表した2021年4月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万8,294トン(前年同月比2.3%減)の前年同期比16ヵ月連続減。出荷量は1万9,700トン(同12.6%増)の同16ヵ月ぶりの増加。在庫量は1万5,610トン(同29.3%減)となり、同6ヵ月連続減となった。
生産量の主な品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,426トン(同4.2%増)の同16ヵ月ぶりの増加。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,047トン(同10.7%減)の同16ヵ月連続減。▽被覆アーク溶接棒が2,145トン(同0.0%減)の横ばいになった。その他を含む生産量計では1万8,294トン(同2.3%減)となり、同16ヵ月連続減となった。
出荷量の主な品種は▽SWが7,996トン(同20.7%増)となり、同16ヵ月ぶりの増加。▽FCWが6,561トン(同1.4%増)の同16ヵ月ぶりの増加。▽溶接棒が2,497トン(同32.5%増)の同16ヵ月ぶりの増加となった。その他を含む出荷量計では1万9,700トン(同12.6%減)となった。
在庫量の主な品種は▽SWが5,219トン(同33.9%減)の同4ヵ月連続減。▽FCWが6,038トン(同20.9%減)の同5ヵ月連続減。▽溶接棒が2,236トン(同35.9%減)の同8ヵ月連続減となった。その他を含む在庫量計では1万5,610トン(同29.3%減)となった。
21年(1~4月)の生産量は6万8,410トン(前年同期比9.4%減)となり、出荷量は7万0,875トン(同2.7%減)となった。なお、財務省の貿易統計による輸出量が3,137トン(前年同月比69.3%増)となり、輸入量が7,170トン(同6.9%増)となった。
20年4月-21年4月 溶接材料月別実績表
生産量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 % | フラックス入りワイヤ | 前年比 % | 被 覆 溶接棒 | 前年比 % | 合 計 | 前年比 % |
2020年度 | 4 | 7,398 | ▼16.6 | 6,773 | ▼7.7 | 2,146 | ▼11.8 | 18,724 | ▼11.8 |
5 | 5,519 | ▼29.1 | 5,340 | ▼28.0 | 1,726 | ▼28.7 | 14,746 | ▼28.7 | |
6 | 5,008 | ▼44.6 | 6,744 | ▼3.8 | 2,121 | ▼14.6 | 16,417 | ▼21.8 | |
7 | 5,091 | ▼48.7 | 6,212 | ▼26.0 | 2,227 | ▼3.8 | 16,173 | ▼31.5 | |
8 | 5,064 | ▼31.4 | 4,921 | ▼17.6 | 1,615 | ▼24.6 | 13,828 | ▼24.6 | |
9 | 57,17 | ▼36.6 | 6180 | ▼22.4 | 1775 | ▼26.7 | 15,740 | ▼29.6 | |
10 | 6,997 | ▼22.9 | 5,829 | ▼27.9 | 1,728 | ▼25.6 | 17,120 | ▼23.5 | |
11 | 7,528 | ▼16.6 | 5,855 | ▼20.3 | 1,845 | ▼9.2 | 17,429 | ▼17.8 | |
12 | 6,637 | ▼24.1 | 5,297 | ▼27.1 | 1,660 | ▼30.0 | 16,014 | ▼25.3 | |
2021年 | 1 | 6,028 | ▼18.5 | 5,346 | ▼20.2 | 1,803 | ▼13.5 | 15,419 | ▼17.9 |
2 | 6,781 | ▼8.1 | 5,644 | ▼16.9 | 1,982 | 2.2 | 16,888 | ▼8.0 | |
3 | 7,372 | ▼3.6 | 5,788 | ▼20.2 | 2,157 | ▼7.0 | 17,809 | ▼9.2 | |
4 | 7,426 | 4.2 | 6,047 | ▼10.7 | 2,145 | 0.0 | 18,294 | ▼2.3 | |
2021年(1-4月) | 計 | 27,607 | ▼7.4 | 22,825 | ▼16.8 | 8,087 | ▼4.8 | 68,410 | ▼9.4 |
単位/トン
出荷量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 % | フラックス入りワイヤ | 前年比 % | 被 覆 溶接棒 | 前年比 % | 合 計 | 前年比 % |
2020年度 | 4 | 6,627 | ▼21.7 | 6,470 | ▼24.8 | 1,885 | ▼24.8 | 17,491 | ▼18.3 |
5 | 5,569 | ▼33.1 | 6,037 | ▼17.5 | 2,024 | ▼13.0 | 15,949 | ▼23.5 | |
6 | 5,581 | ▼35.3 | 6,525 | ▼12.3 | 2,162 | ▼10.8 | 16,863 | ▼20.2 | |
7 | 4,948 | ▼48.2 | 5,948 | ▼26.9 | 2,044 | ▼11.1 | 15,937 | ▼31.0 | |
8 | 5,306 | ▼31.7 | 5,363 | ▼17.6 | 1,914 | ▼11.6 | 15,027 | ▼22.7 | |
9 | 6,374 | ▼28.3 | 6,089 | ▼19.5 | 2,028 | ▼14.3 | 16,579 | ▼23.2 | |
10 | 6,710 | ▼21.2 | 5,757 | ▼26.1 | 1,900 | ▼11.0 | 16,897 | ▼23.2 | |
11 | 7,171 | ▼10.5 | 5,929 | ▼18.9 | 1,814 | ▼11.7 | 17,209 | ▼15.0 | |
12 | 7,143 | ▼16.9 | 5,615 | ▼25.1 | 1,918 | ▼23.9 | 17,022 | ▼21.3 | |
2021年 | 1 | 6,932 | ▼1.0 | 5,878 | ▼15.3 | 1,838 | ▼17.4 | 17,053 | ▼9.1 |
2 | 6,847 | ▼1.1 | 5,689 | ▼12.7 | 1,988 | ▼2.2 | 16,851 | ▼5.4 | |
3 | 7,266 | ▼1.5 | 5,404 | ▼21.8 | 1,907 | ▼10.4 | 17,271 | ▼8.0 | |
4 | 7,996 | 20.7 | 6,561 | 1.4 | 2,497 | 32.5 | 19,700 | 12.6 | |
2021年(1-4月) | 計 | 29,041 | 4.0 | 23,532 | ▼12.3 | 8,230 | ▼0.5 | 70,875 | ▼2.7 |
単位/トン
日本溶接材料工業会
【建築プロジェクト】
仙台厚生病院、S造9階・塔屋1層、延床4万6,297平米
鹿島・橋本店・阿部和工務店JVで7月着工
一般財団法人厚生会の仙台厚生病院(仙台市青葉区広瀬町4-15)の移転新築計画は同区堤通雨宮町にある東北大学農学部雨宮キャンパス跡地の敷地面積約9万3,000平方メートルのうち、新病院は西側のほぼ半分に当たる4万1,262平方メートルを活用する。
新病院建設の施工者を鹿島・橋本店・阿部和工務店JVで7月に着工する。新病院の規模は延べ床面積のベースでは既設病院の1.6倍増となる。S造9階・塔屋1層建て、延べ床面積約4万6,297平方メートル。免震構造を採用し、病床数は全409床で全て個室となり、既存病院の1.6倍に拡充する。基本・実施設計とも佐藤総合計画が担当。23年12月末に完成し、24年5月の開院を予定する。
関連施設としてエネルギーセンター棟S造3階・塔屋1層建て、保育所棟S造3階建ても併設される。全体で767台を収容できる駐車場と98台を収容できる駐輪場を設置。将来の医療革新にも対応できるよう、病棟の北側と南側には増築が行えるスペースを確保している。
新病院の建築理念は「杜の都の次世代型先進病院」をコンセプトに緑にあふれた自然豊かな仙台の街並みに調和した落ち着いた安心感のある病院を目指す。外壁の塗装は茶色を基調にする。
東北大学雨宮キャンパス跡地は、仙台厚生病院の移転新築以外にも大規模開発が相次いで計画されている。北東側では野村不動産と住友不動産がそれぞれ大規模分譲マンションを建設済みまたは建設中。南東側のイオンモールでは将来的に大規模商業施設の開発が計画されている。
連載/あの人、この人(15)
構造家・渡辺さんを偲ぶ
「SDGS(持続可能な開発目標)」が経済界の潮流になっている。開発目標17に賛意を示すバッチを経済人や政治家らの襟に付けている。SDGS運動の掛け声の中、「SDG(Structurl Design Group/構造設計集団)」の代表・渡辺邦夫さんが4月9日に81歳で亡くなった。構造デザイン家を自認する渡辺さんが歩んだ業績や軌跡からすれば渡辺さんは正に「SDGS」を幾つも実践した人である。
渡辺さんの経歴は、1939年12月2日東京都の生まれ。63年日大・理工学部建築科卒(桜建賞受賞)し、同年4月に構造設計界の重鎮であったY建築設計事務所に入所するも1年後の5月にK構造設計事務所に転所。69年11月、30歳を目前にSDG社を興す。爾来、社外では代表を自称とし、社内では主宰として実務に専念する。
渡辺さんと出会ったのは、鋼構造誌「T技術」(以下本誌)を創刊した年の88年夏、編集チーフのK君が「新進気鋭の構造設計者で、構造大御所・K先生から独立した人」と言われ、港区の天現寺橋近く南麻布4丁目の事務所(後に渋谷・広尾5丁目へ、後年台東・浅草へ移転)を訪れた。K君の話ではSDGを設立して18年、若手ながら著名建築物の構造設計を手掛けている。何誌もの建築誌に寄稿や連載をし、建築界や行政に辛辣な評論や指摘もあり渡辺ファンが多いと聞いていた。
渡辺さんは開口一番、「僕は、鋼構造の雑誌が創刊したと聴き興味を持った。ファブリケーターの技術者・技能者をターゲットにしているようだが、多くの設計事務所は鉄骨構造の知識を知らないため、(欠陥・不良鉄骨などの)問題を起こしている。設計者やゼネコン技術者などの読者層をもっと幅広にすることを薦める」と感想とアドバイスされ、初対面ながらすっかり惚れ込んでしまった。
さらに「このところ、建築界も専門分化され視野が狭くなり、僕は嫌いだな。構造は計算屋と言われるが、建築意匠の理解できる<構造デザイン>でなくてはならない」と言われた。構造は、意匠の下請けでなく、協働でなくてはならないと強調する。「僕は、常に構造設計の大御所Y先生、師と仰ぐK先生の教えを肝に銘じている」と述べ、構造設計でなく<構造デザイン>を目指していると語っていた。
さっそく、幕張メッセ・日本コンベンションセンター(千葉・美浜区)の構造部門を恩師K先生と渡辺さんが共同担当したこともあり、88年10月号の座談会「鋼構造建築における大規模空間の考察」をお願いした。出席者は大空間構造の権威で法政大のK教授、国技館の構造を担当したK建設のB構造設計部次長、T研究室のN取締役、T組鉄工所のK立体構造部長のメンバーとなった。K教授を中心に渡辺さんの絶妙な進行によって、構造技術や体験談を語り合った。とくに大空間構造物はひとつひとつのディテールが異なる構法で、究極の構造デザインであることを解明し合った。
この座談会が契機で渡辺さんとより親密になる。交流する中での話題から「海浜幕張駅から幕張メッセに向かう歩道橋は土木技術者の設計だから堅牢そのもので街並みとの調和も良くない。建築設計者ならもっとスマートになる」と建築と土木設計者の違いを説いた。その時は、歩道橋の外観やデザインに興味もなく、軽く聞き流していた。よもや、それから15年後起きた「朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故」に渡辺さんが関わるとは思いもよらなかった(この件については、後段で記述したい)。
巨大空間の幕張メッセの後、カトリック高輪教会(聖堂)の小規模な空間を手掛けるなど多才な人だ。その聖堂の工事現場を、渡辺さんから「鉄骨の構造が面白いから、一度見に来ないか」と誘われ、カメラマンと連れだって訪れた。品川駅から高輪に向かった坂を登り詰めたところが建築地。聖堂の鉄骨造の屋根は寄棟型で内部はアール型の幅14メートル、奥行き26メートルの小空間だが教会らしい雰囲気を出している。鉄骨構造を熱心に説明してくれた。平鋼を2枚重ねにしたアールの集合体によって屋根を支えていることだけは理解できた。本誌88年12月号の幕張メッセの表紙に続いて1月号も高輪聖堂で表紙を飾った。2号続けて表紙で作品紹介したのはSDGの渡辺さんだけであった。
執筆でも多忙な渡辺さんだが、本誌に2ページの連載をすることになる。93年1月号から隔月で『渡辺邦夫のひとりDEBATE』と題して、「市民生活に合わせた<構造>」からはじまり、「役立つ情報と有害な情報」「恐るべき<構造法規>による弊害」「安全性の保証とは何か」「難解な癒着構造」とだんだんと渡辺さんらしい論調となる。多くの渡辺ファンができる一方、批判的な読者もいて話題の誌面になった。後年、次ぎのU編集長に受け継がれ『Part2』が97年10月号まで続けられた。
渡辺さんの構造設計は模型づくりから始まる。「建築科の学生らにも手伝ってもらうが、模型づくりで学ぶことが多い。構造は計算だけでなく模型でヒントが生まれる」。そうした渡辺作品が、83年「武蔵大学キャンパス再開発」で建築業協会賞(BCS賞)、90年「幕張メッセ」で日本構造技術者協会賞(JSCA賞)、97年「東京国際フォーラム」でJSCA特別賞、同年「東京晴海総合高等学校」でBCS賞、04年「横浜大桟橋旅客ターミナル」でBCS賞となっているが、精緻な模型制作が奏功しているのである。
その一方、体験・知識を伝承することを使命とし、18年に『渡辺邦夫の日曜学校』(東京・大阪で12回開講)で次世代に構造の在り方や心構えを説いている、さらにYouTubeチャンネルで『渡辺邦夫の未完の軌跡』(70~20年)と題し、50年間にわたる主な作品を回顧する貴重な映像を残している。
最後に新潟県との不条理な闘いになる「朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故」に言及する。新潟・中央区万代島の朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターとフェリーターミナルを通ずる連絡デッキ(屋根付き歩道橋)の5スパンうちの1スパンが03年8月26日の午後8時20分に落下。この事故で死傷者は出ていないが設計・施工を巡って訴訟問題に発展する。
渡辺さんのひとりDEBATE Part2の「朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故にともなう新潟県が提訴した損害請求事件に奇跡的な一審判決が出た」では以下のように記述している。<朱鷺メッセ連絡橋は、新潟県(港湾空港局)が新潟県建築設計共同組合に設計発注し、その組合理事長を務めるF建築事務所が受け、景観デザインをM総合計画事務所、構造設計をSDGが担当となる>と前置きした。
だが、SDGが構造設計図を提出する以前に、<新潟県は地元のゼネコンに工事を発注した。不思議なことで基本計画図程度のものでしかない>と構造図の前に工事ありきであった。<僕は4日間、現場に朝から晩まで立ち尽くして現象を観察し、この謎を解く方法論を考え続けた。こんな複雑な問題を解くにはコンピュータの力を借りないとダメだ、破断している箇所が全部で23ヶ所ある。(中略)それから1ヶ月間コンピュータと徹夜で取り組んで、最後に「上弦材鉄骨破断説」を確信した>と構造の責任として事故解明に辿り着くことになる。
これに対し、新潟県は事故原因調査委員会を設け、5ヵ月後に「PC定着部破断説」を公表。渡辺さんは<その調査報告書を見ると推定と推論の塊で、何にも論証していないし立証もできていない>と論破するも、<(新潟県)は04年9月に新潟地方裁判所に設計・施工の6者に損害賠償事件として提訴。しかもSDGの設計ミスが事故の主因とある>と指摘され、7年半にわたる法廷闘争となる。
12年3月の新潟地裁の判決は、<原告(新潟県)の本訴請求をいずれも棄却する>というもの。その一方、渡辺さんの反訴も棄却される。真の事故原因は何かには触れられていない。渡辺さんの解釈では<裁判所もそのことには気にしていて、判決文の中で述べている。「本件事故で、責任の所在を明確にし、再発防止を期するため、事故原因を徹底的に究明することは有意義である。しかし、民事訴訟においては請求者(原告)の請求を根拠づける主張が認められるか、あるいはそうでないかが審議の対象とされ、この点についてのみ裁判所が判断すべきとされている」。だから、何故落ちたのかの真因を追究する場ではないということなのだろう>と裁判所の冷静な判断をある程度評価している。
新潟県は被告6者のうち、SDGとK建設、F建築設計事務所の3者を訴訟対象から外し、12年4月新潟地裁の判決を不服として、新潟県建築設計協同組合とM総合計画事務所、D建設工業の3者を東京高裁に控訴する。その控訴審は、13年12月東京高裁の和解案に従って、被告3者が新潟県に対して8,000万円を支払う和解が成立する。多くの課題を残したまま法廷闘争は終結した。
渡辺さんは弁護士を使わずに闘った反骨の人である。新潟県と訴訟経緯と一審公判を通し、役人の頑な保身と責任回避に対抗する一方、落橋現場も見ない部外者らによる無責任な言動についても闘ってきた。そうした経緯を多くの建築誌に寄稿してきた。潔癖で頑固一徹な性格を貫いてきている。
その反骨精神と半世紀に亘る<構造デザイン>に賭けてきた体験談をYouTube『渡辺邦夫の未完の軌跡』で聴講することができる。
【中井 勇】