スノウチニュース<№195> 令和3年1月


【鉄骨需要月別統計】
11月鉄骨需要量は31万4,300トン(前年同月比11.6%減)
20年4~11月で275万1,300トン(前年同月比14.2%減)

国土交通省が12月25日発表した「建築物着工統計調査」の2020年11月着工総面積は9,371千平方メ―トル(前年同月比6.9%減)となり、前年同月対比で15ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは今年に入って9回となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が327千平方メートル(同29.2%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽民間建築物は9,045千平方メートル(同5.8%減)となり、同15ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は6,001千平方メートル(同5.0%減)となり、同15ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,371千平方メートル(同10.1%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,000千平方メートル(同14.5%減)となり、同8ヵ月連続減となった。▽SRC造は286千平方メートル(同208.6%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。
一方、▽RC造は1,502千平方メートル(同9.4%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽W造は4,525千平方メートル(同4.3%減)となり、同16ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は30万トン(前年同月比14.5%減)となり、同8ヵ月連続減となった。SRC造は1万4,300トン(同208.6%増)となった。鉄骨造計では前月対比5.8%減の31万4,300トン(前年同月比11.6%減)となった。
20年度4~11月でのS造は268万5,600トン(前年度同期比16.0減)となり、SRC造は6万5,700トン(同37.2%増)となり、鉄骨造合計では275万1,300トン(同14.2%減)となった。

19年11月-20年11月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2019/11 351,000 -14.8 4,650 12.4 355,650 -14.6
12 402,700 2.6 5,400 -29.7 408,100 2.0
2020/1 266,100 -296 5,350 65.9 271,450 -28.8
2 300,000 -20.2 10,400 56.6 310,400 -18.9
363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
10 328,400 -10.7 5,350 -2.9 333,750 -1.8
11 300,000 -14.5 14,300 208.6 314,300 -11.6
暦年計(20/1~11) 3,610,400 -14.1 85,700 37.4 3,696,100 -14.3
年度計(20/4~11) 2,685,600 -15.0 65,700 37.2 2,751,300 -14.2

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
国交省の10月建設受注6兆4,791億円(前年同月比2.6%減)
元請受注高では、公共機関は増加、民間などは減少

 国土交通省が10日に公表した10月の「建設工事受注動態統計調査」によると、受注総額は6兆4,791億円(前年同月比2.6%減)となり、先月の増加から再び減少に転じた。うち、▽元請受注高4兆2,481億円(同0.8%増)となり、▽下請受注高は2兆2,311億円 (同8.6%減)となった。 元請受注高のうち、▽公共機関からの受注高1兆5,157億円(同9.5%増)となり、▽民間などからの受注高は2兆7,323億円(同3.5%減)となった。公共機関は2ヵ月連続増、民間などは2ヵ月連続減となった。
公共機関のうち、発注機関別で1件500万円以上の工事を集計すると、▽国機関が4,601億円(同26.4%増)となり、▽地方機関が1兆0,225億円(同5.3%増)となった。国、地方機関ともに2ヵ月連続増となった。また、▽民間建築工事・建築設備工事の1件当たり、5億円以上の受注高は6,076億円(同11.9%減)と2ヵ月連続減となり、▽民間土木工事・機械装置等工事の1件当たり、500万円以上の受注高は5,000億円(同1.7%増)と2ヵ月連続増となった。


日建連11月総受注額約9,648億円(前年同月比6.6%減)
民間工事は6,686億9,100万円(前年同月比0.5%増)

日本建設業連合会(日建連)が12月25日に発表した会員企業95社の2020年11月受注工事総額は9,648億3,500万円(前年同月比6.6%減)となり、前年同月比では3ヵ月連続減となった。うち民間工事は6,686億9,100万円(同0.5%増)の微増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。官公庁工事は2,155億8,200万円(同5.1%増)の微増となり、同3ヵ月連続増となった。
国内工事は8,885億8,500万円(同1.9%増)の微増となり、同2ヵ月連続増となった。民間工事の6,686億9,100万円のうち、▽製造業が1,598億5,100万円(同14.0%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽非製造業は5,088億4,000万円(同3.0%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
官公庁工事の2,155億8,200万円のうち、▽国の機関が1,595億2,600万円(同4.2%増)となり、6ヵ月連続増となった。▽地方の機関は560億5,600万円(同7.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽その他が43億1,200万円(同140.5%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽海外工事は762億5,000万円(同52.6%減)の大幅減となり、同8ヵ月連続減となった。
20年度(4~11月)の総受注総額が7兆4,304億4,300万円(前年度同期比8.6%減)となった。民間工事が5兆0,684億7,500万円(同13.2%減)、官公庁工事が2兆1,884億8,900万円(同19.0%増)、海外工事が1,421億3,700万円(同66.1%減)となった。
一方、11月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道235億7,000万円(前年同月比13.9%減)となり、前年同期比で3ヵ月ぶりの減少となった。▽東北656億0,400万円(同71.4%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽関東4,130億2,000万円(同1.4%増)の微増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽北陸366億円0,700万円(同28.4%減)の大幅減となり、同1ヵ月で増加に転じた。
▽中部1,109億2,600万円(同54.1%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。▽近畿1,689億3,800万円(同14.1%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽中国242億4,900万円(同56.8%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽四国137億2,400万円(同74.8%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽九州319億5,000万円(同49.9%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。


11月粗鋼生産量726万トン(前年同月比5.9%減)
10月普通鋼建築用52.4万トン(前年同月比4.1%増)

日本鉄鋼連盟が12月22日に発表した2020年11月の 銑鉄生産は513.5万トン(前年同月比11.6%減)となり、前年同月比で9ヵ月連続減となり、粗鋼生産は726.4万トン(同5.9%減)となり、同9ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が528.8万トン(同7.5%減)となり、同9ヵ月連続減。▽電炉鋼が197.7万トン(同1.0%減)となり、同21ヵ月連続減となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が574.0万トン(同2.5%減)となり、同9ヵ月連続減。▽特殊鋼が152.4万トン(同16.6%減)となり、同24ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は653.3万トン(同6.2%減)となり、同29ヵ月連続減となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は515.3万トン(同4.8%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は138.0万トン(同10.9%減)となり、同23ヵ月連続減となった。
一方、10月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は52万4,244トン(同4.1%増)となった。うち▽非住宅用が37万2,298トン(同2.8%増)となり、▽住宅用が15万1,950トン(同7.2%増)となった。
20年度4~9月の建築用は341万3,633トン(同0.2%減)となった。▽非住宅が242万5,477トン(同1.7%増)となり、▽住宅が98万8,156トン(同4.6%減)となった。


10月溶接材料の出荷量1万7,120トン(前年同月比23.5%減)
20年4-10月出荷量11万4,743トン(前年同期比22.9%減)

日本溶接材料工業会が発表した2020年10月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万7,120トン(前年同月比23.5%減)となり、前年同期比では10ヵ月連続減となった。出荷量は1万6,897トン(同20.8%減)となり、同10ヵ月連続減となった。在庫量は1万8,863トン(同1.8%増)となり、同10ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が6,997トン(前年同月比22.9%減)となり、前年同月比では10ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が5,829トン(同27.9%減)となり、同10ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が1,728トン(同25.6%減)となり、同9ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万7,120トン(同23.5%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが6,710トン(同21.2%減)となり、同10ヵ月連続減となった。▽FCWが5,757トン(同26.1%減)となり、同10ヵ月連続減となった。▽溶接棒が1,900トン(同11.0%減)となり、同10ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万6,897トン(同20.8%減)となった。
在庫量の主品種は▽SWが6,802トン(同30.3%増)となり、同10ヵ月連続増となった。▽FCWが7,137トン(同1.7%増)となり、同5ヵ月連続増となった。▽溶接棒が2,606トン(同16.9%減)となり、同2ヵ月連続減となった。その他を含む在庫量計は1万8,863トン(同1.8%増)となった。
20年度4-10月の生産量は11万2,748トン(前年同期比24.6%減)となり、出荷量は11万4,743トン(同22.9%減)となった。

19年10月-20年10月 溶接材料月別実績表

単位/トン

生産量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆  溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 10 9,078 ▼4.6 8,090 ▼1.1 2,322 9.8 22,375 ▼2.5
(令和元年) 11 9,024 ▼0.6 7,343 ▼6.2 2,033 ▼18.8 21,212 ▼5.3
12 8,743 10.3 7,263 2.1 2,370 13.8 21,431 8.7
2020年 1 7,398 ▼6.7 6,637 ▼3.3 2,085 10.7 18,771 ▼7.2
(令和2年) 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
2020年度 4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
9 57,17 ▼36.6 6180 ▼22.4 1775 ▼26.7 15,740 ▼29.6
10 6,997 ▼22.9 5,829 ▼27.9 1,728 ▼25.6 17,120 ▼23.5
2020年度 (4-10) 35,077 ▼42.3 41,999 ▼19.5 13,338 ▼19.3 112,748 ▼24.6

 

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆 溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 10 8,512 ▼11.1 7,792 3.7 2,136 ▼11.1 21,348 ▼6.5
(令和元年) 11 8,012 ▼10.8 7,315 ▼3.2 2,054 ▼13.4 20,246 ▼7.9
12 8,596 8.9 7,498 4.1 2,519 31.1 21,619 9.5
2020年 1 7,000 ▼8.4 6,941 ▼6.7 2,224 ▼8.4 18,758 ▼11.9
(令和2年) 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
2020年度 4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
9 6,374 ▼28.3 6,089 ▼19.5 2,028 ▼14.3 16,579 ▼23.2
10 6,710 ▼21.2 5,757 ▼26.1 1,900 ▼11.0 16,897 ▼23.2
2020年度 (4-10) 41,115 ▼31.6 42,189 ▼19.2 13,957 ▼14.0 114,743 ▼22.9

日本溶接材料工業会

【建築プロジェクト】
福岡市青果市場跡地活用事業(商業施設)
S造、地下1階・地上5階建など延床20万6,400平米

三井不動産、九州電力、西日本鉄道の3社は、博多那珂6開発特別目的会社(SPC)を設立し、福岡市が実施の「青果市場跡地活用事業」(福岡市博多区那珂6-351ほかの青果市場跡地)の当該跡地(敷地面積約8万6,600平方メートルを取得し、商業施設と立体駐車場の建設をする。
同商業施設の機能は ファッション、雑貨、飲食、エンターテインメント施設など話題性の高い店舗を揃え、ファミリー層からシニア・ヤング層まで幅広い世代が楽しめる出会いと体験に満ちた新しい施設をコンセプトにしている。
建設規模は、▽店舗棟S造、地下1階・地上5階建てなど3棟構成、▽立体駐車場S造、地上7階建てなど3棟構成の総延べ床面積約20万6,400平方メートル。設計は竹中工務店が担当し、施工を▽店舗棟を竹中工務店・南海辰村建設・西鉄建設・小林建設・坂下組JV。▽立体駐車場棟を大和リースが担当。工期は20年11月着工し、22年春完成の予定。
計画地は、幹線道路の筑紫通りに接し、福岡外環状線にも至近であり、道路交通網となっている。また、福岡空港、博多駅と近接のアクセスに優れた立地。JR九州の鹿児島本線・竹下駅から徒歩圏内にあり、計画地内にバスターミナルを新設予定や公共交通の利便性も充実している。
商業施設は、広場空間や商業機能を中核に、福岡・九州の魅力発信、周辺地域の生活の質の向上、開かれた場づくりなど都市機能の充実に寄与する、としている。


連載/あの人、この人(9)
阪大・溶研所長A教授

前回は大阪の破天荒な友人の話でした。今回は偉い先生の話。1980年にW新聞大阪本社転勤になって半年を過ぎ、東京と大阪の違いが分かってきた。そのひとつが大阪大学に国内唯一の溶接学科であり、さらに「大阪大学溶接工学研究所」(現・大阪大学接合科学研究所)の存在があった。
業界紙の弱みは学会誌や技術誌と異なり、学術論文や研究課題などを採り上げるには紙面構成(縦書き)のため難しく、記者に学術知識がなく敬遠に成りがちになる。記者の多くは文系(文学・経済・法律)出身で、業界の専門知識などは先輩や業界人によって培われる。専門知識は「門前の小僧習わぬ経を読む」程度の浅学のため、取材先で失敗や大恥をかくことも度々である。そんな苦い経験や失敗体験が後々に生かされ、その業界に10年も辛抱すれば、いっぱしの業界紙記者になれる。
大阪は「溶接のメッカ」と言われる。阪大溶接学科の教授陣や阪大溶接工学研究所(阪大溶研)に頻繁な取材は極当たり前と思っていたら、ライバル紙の「Yニュース」もさほどでもなかった。私がS総合出版社勤務で技術誌担当時代に面識のあった溶接学科・N教授に挨拶に伺ったところ「君が大阪に来たのならぜひ溶研所長のA教授を紹介する」と言われ、その日に溶研所長室を訪ねることができた。阪大溶研は72年に「学術会議」の勧告で設立。わが国初の溶接・接合総合研究機関とし、溶接工学科との連携研究や全国共同利用研究、産学共同研究・開発など広範囲なものであった。
所長のA教授(以後、先生)との初面談は緊張そのものだった。白髪の学者然とした威厳に圧倒された。それでも意を決し、大阪赴任までの経緯や編集方針などを快く聴いて頂けた。気を良くした私は、それまでの取材したスイス製のプラズマ超薄板溶接機や東ドイツ製のプラズマ鋼板切断装置、さらに日本電気(NEC)製の5kW級電子ビーム溶接機(EBW)など新エネルギーについて調子に乗って語った。そんな他愛ない取材話にも真摯に応対して頂いた上に、溶研の課題や研究テーマなど事細かに説明して頂いたことから親しみを覚えることになる。
次に訪問した時は、先生が研究開発中の50kW級のEBW装置の見学ができた。実験室ではなく吹き抜けの大空間ホールだった。中央に宇宙船のような巨大なEBWが設置されていた。まだ、製作段階でのビーム実験は行われていなかったが、100ミリ厚のステンレス鋼のワンパス溶接が可能だという。NEC製の5kW級でも凄かったが、その10倍超の出力となれば用途や目的は広がると実感した。
それ以来、先生とは4年ほどの短い間の関係ながらも濃密なものだった。各部門教授らのインタビュー記事、新しい研究テーマの記事、教授・助教授・講師の人事異動などをはじめ、数度にわたり「阪大溶研/溶接工学の現況と将来展望」を企画・掲載するなど些かなりとも寄与したと思っている。
その特集号取材のたびに阪大溶研を日参し、家族との会話でも話題したため、長女(高2)が興味を示し「私を大阪大学に連れていって。溶接研究所の見学もしたい」と頼まれ。ある日、娘と一緒に所長室を訪れた。先生は「女子高生がここに来たのは初めて」と大層喜んでくれた。「溶接に興味があれば、ぜひ大阪大学に入学してほしい。(溶接学科は)男子ばかり。これからの時代は女性研究者にも活躍してほしい」と進学を誘われた。娘は巨大なEBW装置やレーザ装置に関心を示したが、実家近くの公立大学に進んでしまった。
娘の溶研見学もあって、親密な話ができるようになった。先生の住まいは阪急沿線の閑静な武庫之荘にあり、私は武庫川を越えた西宮北口のため、車でご自宅までお送りすることもあった。
わが国の溶接技術は、鉄鋼・造船・橋梁・化学など重厚長大産業の成長と共に発展してきたが、80年代の産業構造転換による半導体による軽薄短小化による付加価値製品に代わってきた。高温エネルギーのプラズマ、レーザ、電子ビームなどの実用化が進む一方、新技術を開発する大学や研究機関への予算が少なく、産学共同研究によって民間企業の支援で凌いできたが、日進月歩する最先端技術の開発・研究には膨大な資金が欠かせない。その資金捻出も所長の大きな責務でもあった。
「産学共同も溶接機メーカーや造船・重工や建機だけでは難しくなっている。新たに産学協力ができる業界や企業はないかね」と問われる。溶接・高温研究基金制度案を提唱する一方、「バンドソーや穴あけ機や板金加工のプレス機、シャーリング機、レーザ切断機などのメーカー・A社はどうでしょう。一度、神奈川県のA社常設展示場に行きませんかと進言したところ早急に実現する。先生とO助教授と3人連れ立って見学する。「これだけの規模の常時展示実演と来館者の多さには驚きだ。レーザ技術も全自動マシンも見事なものだ。大いに勉強になった」と感心することしきりだった。
まもなくW新聞社を辞め、鋼構造紙のK出版大阪支社を開設し、阪大溶研とは縁遠くなる。私が東京本社に異動した88年3月に期せずして、先生は阪大溶研所長・教授を退官し名誉教授になられる。阪大溶研での功績を称え構内に「A記念館」が建てられた。
阪大の公表するA教授の主な受賞は、82年ポーランド国家勲章、85年日本学士院賞、88年米国レーザ学会フェロー、93年米国金属学会フェロー、95年文化功労者、04年瑞宝重光章、05年国際常温核融合学会賞などである。
各受賞は、超高エネルギー密度の新熱源を開発により新素材や高機能複合材の過熱加と、その特性の解明に成功。わが国で初の公開による核融合反応に関する実験に成功するなど世界的な成果を上げた。06年「文化勲章」を受章。18年6月5日逝去される。享年94歳。
このような偉大な先生が一介の業界紙記者に親しく接して頂けたことに感謝している。
【中井 勇】