スノウチニュース<№189> 令和2年7月
【鉄骨需要月別統計】
5月鉄骨需要量36万5,800トン(前年同月比4.6%減)
S造35万2,000トン、SRC造1万3,800トン
国土交通省が6月30日発表した「建築物着工統計調査」の2020年5月着工総面積は9,444千平方メ―トル(前年同月比10.5%減)となり、前年同月対比で9ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは5ヵ月連続となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が329千平方メートル(同49.6%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽民間建築物は9,115千平方メートル(同7.9%減)となり、同9ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,381千平方メートル(同15.7%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は4,064千平方メートル(同2.6%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,520千平方メートル(同6.4%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽SRC造は276千平方メートル(同88.2%増)の大幅増となった。
一方、▽RC造は1,817千平方メートル(同6.5%減)となり、同3ヵ月連続減となった。▽W造は3,775千平方メートル(同18.6%減)となり、同10ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は35万2,000トン(前年同比6.4%減)と30万トン台の低水準となった。SRC造は1万3,800トン(同88.2%増)の大幅増となった。鉄骨造計では前月比0.8%増となり、前年同月比4.6%減の36万5,800トンとなった。コロナ禍の影響による需要減が秋以降も厳しさを増す傾向となる。
19年5月-20年5月 鉄骨需要量の推移
年/月 | S造(TON) | 前年比(%) | SRC造(TON) | 前年比(%) | 鉄骨造計(TON) | 前年比(%) |
2019/5 | 376,100 | -12.0 | 7,350 | -10.7 | 383,450 | -12.0 |
6 | 428,300 | -9.1 | 3,750 | 109.3 | 432,050 | -8.7 |
7 | 475,600 | 0.7 | 6,550 | -49.9 | 482,150 | -0.7 |
8 | 421,100 | -4.0 | 2,500 | 64.5 | 423,600 | -3.7 |
9 | 348,300 | -18.1 | 7,600 | 29.7 | 355,900 | -17.5 |
10 | 367,900 | -16.4 | 5,500 | -44.5 | 373,400 | -17.1 |
11 | 351,000 | -14.8 | 4,650 | 12.4 | 355,650 | -14.6 |
12 | 402,700 | 2.6 | 5,400 | -29.7 | 408,100 | 2.0 |
2020/1 | 266,100 | -296 | 5,350 | 65.9 | 271,450 | -28.8 |
2 | 300,000 | -20.2 | 10,400 | 56.6 | 310,400 | -18.9 |
3 | 363,800 | 7.5 | 4,950 | 7.7 | 368,750 | 7.5 |
4 | 352,800 | -10.0 | 9,950 | 0.0 | 362,750 | -10.0 |
5 | 352,000 | -6.4 | 13,800 | 88.2 | 365,800 | -4.6 |
暦年計(20/1~5) | 1,634,700 | -12.1 | 44,450 | 39.8 | 1,679,150 | -9.8 |
年度計(20/4~20/5) | 704,800 | -8.2 | 23,750 | 36.9 | 728,550 | -7.2 |
(国土交通省調べ)
【建築関連統計】
日建連の5月総受注額約6,675億円(前年同月比12.4%減)
民間工事は4,548億6,900万円(同12.2%減)
日本建設業連合会(日建連)が6月30日に発表した会員企業95社の2020年5月受注工事総額は6,675億2,700万円(前年同月比12.4%減)となり、前年同月比では3ヵ月連続大幅減となった。うち民間工事は4,548億6,900万円(同12.2%減)となり、同5ヵ月連続大幅減となった。官公庁工事は2,052億0,900万円(同0.9%増)の微増となり、同2ヵ月連続増となった。
国内工事は6,617億7,300万円(同8.7%減)となり、同3ヵ月連続減となった。民間工事の4,548億6,900万円のうち、▽製造業が1,211億2,400万円(同4.7%増)となり、同1ヵ月で増加となった。▽非製造業は3,337億4,500万円(同17.1%減)となり、同5ヵ月連続大幅減となった。
官公庁工事の2,052億0,900万円のうち、▽国の機関が890億0,900万円(同33.9%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽地方の機関は1,162億円(同69.1%増)の大幅増となり、同6ヵ月連続増となった。▽その他が16億9,500万円(同55.3%減)となり、同4ヵ月ぶりの減少となった。▽海外工事は57億5,400万円(同84.5%減)となり、同2ヵ月連続大幅減となった。
一方、4月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道304億5,900万円(前年同月比3.3%減)のとなり、前年同期比では2ヵ月連続減。▽東北590億2,800万円(同6.0%減)となり、同3ヵ月連続減。▽関東2,680億3,600万円(同16.5%減)となり、同3ヵ月連続大幅減。▽北陸218億円1,200万円(同33.0%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加に転じた。
▽中部1,076億0,900万円(同72.8%増)の大幅増となり、同3ヵ月連続増。▽近畿1,223億6,100万円(同17.9%減)となり、同1ヵ月で減少。▽中国254億7,900万円(同2.4%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少。▽四国72億5,400万円(同45.2%減)となり、同2ヵ月連続大幅減。▽九州197億2,200万円(同53.9%減)の大幅減となり、同4ヵ月連続減となった。
*
5月粗鋼生産592万トン(前年同月比31.8%減)
普通鋼の建築用41万トン(前年同月比22.5%減)
日本鉄鋼連盟が6月22日に発表した2020年5月銑鉄生産は440.4万トン(前年同月比32.7%減)となり、前年同月比で3ヵ月連続減となった。粗鋼生産は591.6万トン(同31.8%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
20年度の粗鋼生産は2割減とみており、上期約3,500万トン、下期約4,500万トンの計8,000万トン前後を予測している。リーマン・ショック後の09年度は9,644万8,000トンと1億トンを割り、昨年度も9,842万8,000トンだった。
炉別生産では、▽転炉鋼が430.2万トン(同34.7%減)となり、同3ヵ月連続減。▽電炉鋼が161.5万トン(同22.6%減)となり、同15ヵ月連続減となった。
鋼種別生産では、▽普通鋼が478.3万トン(同27.6%減)となり、同3ヵ月連続減。▽特殊鋼が113.3万トン(同45.2%減)となり、同18ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は518.2万トン(同30.2%減)となり、同23ヵ月連続減となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は429.3万トン(同25.7%減)となり、同3ヵ月連続減となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は88.9万トン(同46.0%減)となり、同17ヵ月連続減となった。
4月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は40万9,788トン(同22.5%減)となった。うち▽非住宅用が29万0,015トン(同21.4%減)、▽住宅用が11万9,773トン(同25.1%減)となった。
*
4月溶接材料の出荷量1万7,491トン(前年同月比18.3%減)
19年度の出荷量24万6,093トン(前年同月比1.6%減)
日本溶接材料工業会が発表した2020年4月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万8,724トン(前年同月比11.8%減)となり、前年同期比では4ヵ月連続減となった。出荷量は1万7,491トン(同18.3%減)となり、同4ヵ月連続減となった。在庫量は2万2,091トン(同25.4%増)となり、同4ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤが7,129トン(前年同月比16.6%減)となり、前年同月比では4ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤが6,773トン(同7.7%減)となり、同4ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が2,146トン(同11.8%減)となり、同3ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万8,724トン(同11.8%減)となった。
出荷量の主品種は▽ソリッドワイヤが6,627トン(同21.7%減)となり、同4ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤが6,470トン(同24.8%減)となり、同4ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が1,885トン(同24.8%減)となり、同4ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万7,491トン(同18.3%減)となった。生産・出荷量の大幅減は、鉄骨建築の端境期と新型コロナウイルス感染拡大による需要減が響いている。
在庫量の主品種は▽ソリッドワイヤが7,894トン(同68.7%増)となり、同4ヵ月連続増となった。▽フラックス入りワイヤが7,630トン(同10.2%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽被覆アーク溶接棒が3,486トン(同19.1%増)となり、同2ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計は2万2,091トン(同25.4%増)となった。
なお、19年度(4~3月)の生産量は24万9,012トン(前年同期比0.5%減)となり、出荷量は24万6,093トン(同1.6%減)となった。
19年4月-20年4月 溶接材料月別実績表
単位/トン
生産量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 | フラックス入りワイヤ | 前年比 | 被覆溶接棒 | 前年比 | 合 計 | 前年比 |
2019年度 | 4 | 8,551 | 10.1 | 7,335 | 3.1 | 2,432 | ▼6.7 | 21,234 | 3.9 |
(令和元年) | 5 | 7,783 | 11.5 | 7,418 | 4.4 | 2,422 | 15.2 | 20,686 | 5.7 |
6 | 9,033 | 9.2 | 7,013 | 20.9 | 2,483 | 12.8 | 21,003 | 8.1 | |
7 | 9,917 | 17.5 | 8,397 | 15.9 | 2,314 | 24.5 | 23,626 | 15.4 | |
8 | 7,378 | 1.5 | 5,974 | ▼14.6 | 2,141 | ▼3.3 | 18,338 | ▼4.9 | |
9 | 9,015 | 9.4 | 7,963 | 17.8 | 2,421 | ▼1.2 | 22,364 | 9.4 | |
10 | 9,078 | ▼4.6 | 8,090 | ▼1.1 | 2,322 | 9.8 | 22,375 | ▼2.5 | |
11 | 9,024 | ▼0.6 | 7,343 | ▼6.2 | 2,033 | ▼18.8 | 21,212 | ▼5.3 | |
12 | 8,743 | 10.3 | 7,263 | 2.1 | 2,370 | 13.8 | 21,431 | 8.7 | |
1 | 7,398 | ▼6.7 | 6,637 | ▼3.3 | 2,085 | 10.7 | 18,771 | ▼7.2 | |
2 | 7,379 | ▼13.6 | 6,788 | ▼8.0 | 1,940 | ▼20.7 | 18,359 | ▼14.2 | |
3 | 7,645 | ▼18.6 | 7,251 | ▼2.4 | 2,320 | ▼1.1 | 19,613 | ▼11.5 | |
2019年度 | 計 | 100,944 | 0.8 | 87,472 | 1.7 | 27,283 | ▼1.0 | 249,012 | ▼0.5 |
2020年度 | 4 | 7,398 | ▼16.6 | 6,773 | ▼7.7 | 2,146 | ▼11.8 | 18,724 | ▼11.8 |
(令和2年) |
出荷量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 | フラックス入りワイヤ | 前年比 | 被覆溶接棒 | 前年比 | 合 計 | 前年比 |
2019年度 | 4 | 8,468 | 6.4 | 7,411 | 2.9 | 2,508 | 2.7 | 21,399 | 4.1 |
(令和元年) | 5 | 8,326 | 14.7 | 7,314 | 7.4 | 2,326 | 20.1 | 20,851 | 8.4 |
6 | 8,630 | 5.5 | 7,439 | 16.7 | 2,425 | 17.5 | 21,134 | 7.3 | |
7 | 9,544 | 14.1 | 8,137 | 16.1 | 2,300 | 2.2 | 23,101 | 12.4 | |
8 | 7,767 | 2.6 | 6,512 | ▼7.4 | 2,164 | ▼3.0 | 19,448 | ▼1.1 | |
9 | 8,885 | 13.8 | 7,560 | 10.2 | 2,367 | ▼6.1 | 21,597 | 7.2 | |
10 | 8,512 | ▼11.1 | 7,792 | 3.7 | 2,136 | ▼11.1 | 21,348 | ▼6.5 | |
11 | 8,012 | ▼10.8 | 7,315 | ▼3.2 | 2,054 | ▼13.4 | 20,246 | ▼7.9 | |
12 | 8,596 | 8.9 | 7,498 | 4.1 | 2,519 | 31.1 | 21,619 | 9.5 | |
1 | 7,000 | ▼8.4 | 6,941 | ▼6.7 | 2,224 | ▼8.4 | 18,758 | ▼11.9 | |
2 | 6,925 | ▼18.4 | 6,517 | ▼8.7 | 2,032 | ▼8.6 | 17,821 | ▼13.9 | |
3 | 7,379 | ▼17.3 | 6,910 | ▼7.1 | 2,128 | ▼12.7 | 18,771 | ▼13.6 | |
2019年度 | 計 | 98,044 | ▼2.2 | 87,346 | 1.7 | 27,183 | ▼2.3 | 246,093 | ▼1.6 |
2020年度 | 4 | 6,627 | ▼21.7 | 6,470 | ▼24.8 | 1,885 | ▼24.8 | 17,491 | ▼18.3 |
(令和2年) |
日本溶接材料工業会
*
全構協、鉄建協、日溶協が共同制作
女性活躍のPR動画、ユーチューブで公開
2014年10月に大手ゼネコンの日本建設業連合会(日建連)が建設業での女性の活躍を期待し、「けんせつ小町」として女性の登用をめざしている。すでに建設現場は男女問わない職場になりつつある。
ものづくりに関心のある女性で就職や転職を希望する職場として、ビルなど建築物の鉄骨製作の魅力と働き甲斐を伝えようと、全国鉄構工業協会(全構協)と鉄骨建設協会(鉄建協)、日本溶接協会(日溶協)の3団体が女性活躍に焦点を当てた動画を共同制作し、動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)の公式チャンネル「鉄骨Female」で公開している。
全構協と鉄建協、日溶協が参画する鉄骨製作支援協議会の「女性活躍ビデオ制作委員会」が主導した。CAD、製作、溶接、検査の各担当4人の密着動画と女子座談会エクササイズ、イケテル鉄骨男子「TETSUMEN」の7編で構成し、それぞれ1分から3分程度のプログラムになっている。
「鉄骨Female」のURLはhttps://www.youtube.com/channel/UCvv0e5Y0J8yN0wD26x6wJ2A
または、インターネットで「鉄骨Female」で検索すると視聴できる。
大型複合施設「蔵前計画」の日本郵政不動産
オフィス棟など3棟・10万平米、大成建設で9月着工
日本郵政不動産が東京都台東区で計画している大型複合施設「蔵前計画」(東京都台東区蔵前1-12-66ほか、敷地面積1万4,407平方メートル)の施工を大成建設で9月中旬に着工する。2023年3月末の完成を目指す。設計は日本郵政が担当し、佐藤総合計画が協力参画している。
同計画の新施設は、オフィス棟(ビジネス)、物流施設棟(物流の拠点)、住宅棟(生活の場)の3施設構成で、建築規模は総延べ床面積約10万1,000平方メートル。▽オフィス棟はS造・一部SRC造、地上13階建て、延べ床面積約3万平方メートル▽物流施設棟はSRC造、地上9階建て、同3万平方メートル▽住宅棟がRC造、地上23階建て、同4万1,000平方メートルの計画。
オフィス棟は環境性能を高め、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)の「Sクラス」を目指している。ガラスファサードによる都市的なデザインを採用し、均一な採光が確保できるよう計画している。基準階面積は2,100平方メートルを超え、コミュニケーションがとりやすく開放感がある空間を提供する。
住宅棟は高齢者施設と賃貸住宅で構成されており、隅田川(花火大会)、東京スカイツリー、超高層ビル群、富士山の眺望といった各方面のめぐまれた環境が期待できる。これらの景観を享受可能な付加価値の高い住戸を実現する。緑道など効果的な緑化を行うことで、四季を感じられ、ここに住む方々に憩いの場となる。
建設地は都営浅草線蔵前駅から徒歩3分の立地で、都営大江戸線蔵前駅やJR総武線浅草橋駅からも近い。既存施設の解体工事はフジタの施工で進めており、10月中旬に完了する。
連載/あの人、この人(3)
異色のY専務理事
鉄構業界紙大阪支社の1982年ごろ出会って公私にわたり親しく付き合うようになった人は、岐阜県鉄構工業協同組合(岐鉄組)の常勤専務理事のYさん。私より6歳年上ながら貫禄十分でひと回り上に見えた。Yさんは、大手ミルメーカーと複数総合商社との合弁でH形鋼を使用した建築鉄骨普及策で関東・東海・関西3地域にそれぞれ鉄骨製作会社を設立。その東海地域のC鉄構社長を務めた後にS発条社長を経た異色の人物。鉄骨ファブ経験と経営手腕を買われ専務理事に就任する。
旧全国鉄構工業連合会(全構連)中部支部会や岐鉄組理事会の会合取材では、Yさんの歯切れの良いサゼェションからすっかり頼りにし、いろいろ相談したことから親しい間柄になる。Yさんの父親は野党の大物政治家のため永田町の議員宿舎生活が長く、岐阜生まれの東京育ちが長く、水泳・ゴルフ・スキーとスポーツ万能の上、弁が立ち学生時代から一目置かれる存在だったようだ。そんなYさんだけに取り巻く仲間は多い半面、反感を買ったり、避ける人も少なくなかったようだ。
鉄骨製作やバネ製造企業のトップを務めた人が50歳代で地元の岐鉄組に籍を置くにはそれなりの理由があるが、「(組合の仕事は)ボランティアのようなもの」と屈託なく笑って本音を避けた。C鉄構が同系のO鉄構と合併した際に辞めたようだ。S発条は経営立て直しのために就任し、軌道に乗った時点で身を引いたとまでは聞いたが、それ以上の詳しく尋ねることはしなかった。
そんなYさんだから歯に衣着せぬ発言も多々で、ゼネコン業界には「元請けとして下請けを育成する気などなく、極端な指し値と短工期で競わせ、その上に長い手形支払など隷属的な扱い。対抗するにはファブ同士が積算・見積もりを共有することしかない」と共同見積もり策を講じることを提唱し、全構連・中部支部でも具体化した。また、業界紙にも「(業界の)上辺現象の記事ではなく、本質を掘り下げ、検証・分析した情報を伝える役割をしてくれよ」と注文を付けるなど手厳しい一面もあった。
その一方、「鉄骨製作には多くの技能・技術資格者の人材育成が急務だ。君に一任するから良い講師を選んでくれないか。県内数か所で講習をする」と言われ、当時第一線で活躍中のM建設・M技術課長とN工業・K技術部長の二人を推薦し、岐阜県内を講習行脚となった。
この技術講習会は盛況で、どの会場も立ち見がでるほどの超満員となった。両講師の話術や技術解説が分かりやすかったことにある。Yさんも経営体験をもとに、ファブ経営ノウハウやゼネコンとの対応方法などを真摯に指導し、貴重なアドバイスをした。意外にも繊細な一面をみた思いがした。
その一例が大臣認定工場の申請手続きである。ファブ経営者は多忙で、事務員が少数のため、技能者・技術者資格管理や工場設備の溶接機・工作機装置などの管理が手薄、いざ申請書制作となるとてんてこ舞いになる。こうした管理を容易にするため「工場認定のための常備管理台帳」なるものを作成し、組合員に配布するなどもYさんらしいアイデアだった。
ところが88年、一切を事務局長に任せて退職する。CADによる積算・施工図の作成、鉄骨製作管理を業務とするY鋼業を興し、会長職に収まる。岐協組時代の知遇もあり、地元ファブにとっては便利な存在として活用された。圧巻は、Yさんと昵懇にしていた在日の実業家H氏のSビルディング(東京・千代田区)が自社設計で、ソウル旧市街中心地に94年6月竣工予定で「世安ビル」(鉄骨造、地下6階・地上20階、延床面積4万3,200平方メートル)を進興綜合建設(ソウル市)が担当し、鉄骨総量約5,100トンを日本のJASS6規準で建てるプロジェクトに参画する。
構造設計はH氏と関係の深いO構造設計研究所(東京・渋谷区)のT設計部長、鉄骨製作は現代重工業・海洋開発事業本部鉄構事業部(蔚山市)が担当し、施工図・鉄骨製作段階から建て方までの品質管理をYさんが担当し、H氏は高い評価をしていたのが印象に残る。このプロジェクトの現地取材や、後に日韓建築関係者による座談会などでも全面的に世話にもなった。
私的交遊では金華山(岐阜城)や長良川の鵜飼い見物、県内名所などを巡った。また海外視察も何度も一緒に参加し、愉しい思い出も多い。政治家の家族は地元選挙区では模範家族でなければならない。親の七光りや御曹子然を嫌い実業の道を選んだ。ところが県人気質に政治好きな面があり、政治家・政治団体と業界団体・企業とのつながりも多く、総選挙となれば業界挙げての選挙運動となる。
Yさんが辞めた後、岐協組が与党会館建設の疑惑問題に巻き込まれる。そんな時もYさん、私には「政治に関心を持っても、国会議員、その秘書には距離を置くことがいい」と断言していた。
【中井 勇】