スノウチニュース<№199> 令和3年5月


【鉄骨需要月別統計】
3月鉄骨需要量は37万9,600トン(前年同月比2.9%増)
20年度は412万1,500トン(前年同月比9.7%減)

国土交通省が4月28日発表した「建築物着工統計調査」の2021年3月着工総面積は10,435千平方メ―トル(前年同月比6.1%増)となり、前年同月対比では1ヵ月で増加に転じた。10,000千平方メートル超えは昨年10月以来6ヵ月ぶりとなった。
▽建築主別は、▽公共建築物が598千平方メートル(同50.2%増)の大幅増となり、同3ヵ月連続増となった。▽民間建築物は9,837千平方メートル(同4.2%増)となり、同1ヵ月で増加に戻った。
▽用途別は、▽居住建築物は6,163千平方メートル(同0.7%増)となり、微増ながら同19ヵ月ぶりの増加となった。▽非居住建築物は4,272千平方メートル(同14.9%減)となり、同1ヵ月で増加に戻った。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,767千平方メートル(同3.6%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽SRC造は58千平方メートル(同41.4%減)の大幅減となり、同3ヵ月連続減となった。
一方、▽RC造は2,367千平方メートル(同31.9%増)となり、同6ヵ月ぶりの増加となった。▽W造は4,177千平方メートル(同1.6%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は37万6,700トン(前年同月比3.6%増)の低水準ながら、同3ヵ月連続増となった。SRC造は2,900トン(同41.4%減)となった。鉄骨造計では前月対比19.3%増の37万9,600トン(前年同月比2.9%増)となった。
なお、20年度(4~3月)では、S造が402万6,900トン(前年度同期比10.4%減)、SRC造が9万4,900トン(同27.9%増)となり、鉄骨造合計では412万1,500トン(同9.7%減)となった。

20年3月-21年3月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2020/3 363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
4 352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
5 352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
9 336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
10 328,400 -10.7 5,350 -2.9 333,750 -1.8
11 300,000 -14.5 14,300 208.6 314,300 -11.6
12 338,000 -16.1 11,300 109.7 349,300 -14.4
2021/1 318,300 19.6 4,800 -10.0 323,100 19.0
2 308,300 2.8 9,900 -4.9 318,200 2.5
3 376,700 3.6 2,900 -41.4 379,600 2.9
暦年計(21/1~3) 1,003,300 7.9 17,600 -15.0 1,020,900 7.4
年度計(20/4~21/3) 4,026,900 -10.4 94,600 27.9 4,121,500 -9.7

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連の3月総受注額約3兆6,965億円(前年同月比13.0%増)
民間工事は2兆6,045億3,800万円(前年同月比15.7%増)

日本建設業連合会(日建連)が4月27日に発表した会員企業95社の2021年3月受注工事総額は3兆6,964億9,600万円(前年同月比13.0%増)の昨年3月に次ぐ3兆超円台に乗せ、前年同月比で3ヵ月連続増となった。うち民間工事は2兆6,045億3,800万円(同15.7%増)となり、同3ヵ月連続増となった。官公庁工事は9,595億3,800万円(同24.8%増)となり、同7ヵ月連続増となった。
国内工事は3兆5,742億3,300万円(同18.3%増)となり、同6ヵ月連続増となった。民間工事の2兆6,045億3,800万円のうち、▽製造業が3,427億1,800万円(同2.6%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽非製造業は2兆2,618億2,000万円(同17.9%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
官公庁工事の9,595億3,800万円のうち、▽国の機関が7,024億1,900万円(同39.5%増)の大幅増となり、同10ヵ月連続増となった。▽地方の機関は2,571億1,900万円(同3.0%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽その他が101億5,700万円(同1,507.1%増)の超大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。▽海外工事は1,222億6,300万円(同50.9%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少に転じた。
一方、3月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が1,311億4,200万円(前年同月比27.3%減)となり、前年同期比では1ヵ月で減少となった。▽東北が2,717億0,200万円(同19.2%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽関東が1兆8,402億9,300万円(同43.9%増)の大幅増となり、同3ヵ月連続増となった。▽北陸が1,231億8,400万円(同1.2%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。
▽中部が2,890億0,500万円(同10.3%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽近畿が5,375億9,800万円(同5.0%増)の微増となり、同1ヵ月で増加となった。▽中国が820億4,600万円(同30.3%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽四国が499億9,200万円(同3.4%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽九州が2,492億6,200万円(同19.2%増)となり、同3ヵ月連続増となった。


日建連の20年度総受注額15兆0,404億円(前年度比0.7%減)
民間10兆2,180億円(同4.6%減)、官庁4兆4,190億円(同24.0%増)

日本建設業連合会の2020年度の総受注総額が15兆0,403億5,100万円(前年度比0.7%減)となった。民間工事が10兆2,179億7,600万円(同4.6%減)、官公庁工事が4兆4,190億1,300万円(同24.0%増)、海外工事が3,554億1,000万円(同56.8%減)となった。
国内工事が14兆6,849億4,100万円(同2.6%増)となった。民間工事の10兆2,179億7,600万円のうち、▽製造業が1兆7,698億8,900万円(同17.5%減)▽非製造業が8兆4,480億8,700万円(同1.4%減)となった。
官公庁工事の4兆4,190億1,300万円のうち、▽国の機関が2兆9,657億8,900万円(同32.0%増)▽地方の機関が1兆4,532億2,400万円(同10.4%増)▽その他が479億5,200万円(同23.4%増)となった。
一方、地域ブロック別の20年度受注工事額は、▽北海道が5,403億3,500万円(前年度比9.6%減)▽東北が1兆3,583億7,900万円(同30.9%増)▽関東が6兆6,401億1,400万円(同2.3%増)▽北陸が5,406億6,300万円(同4.4%減)となった。
▽中部が1兆3,260億2,600万円(同1.3%減)▽近畿が2兆5,205億2,200万円(同6.2%増)▽中国が5,071億6,300万円(同15.9%減)▽四国が2,371億5,100万円(同2.1%増)▽九州が1兆0,145億2,500万円(同5.5%減)となった。


3月粗鋼生産831.5万トン(前年同月比4.6%増)
2月普通鋼建築用45.4万トン(前年同月比12.7%増)

日本鉄鋼連盟は4月22日に発表した2021年3月の銑鉄生産は611.0万トン(前年同月比1.7%増)の前年同月比で13ヵ月ぶりの増加。粗鋼生産は831.5万トン(同4.6%増)となり、同13ヵ月ぶりの増加となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が623.2万トン(同3.0%増)となり、同13ヵ月ぶりの増加。▽電炉鋼が208.2万トン(同9.7%増)となり、同2か月ぶりの増加。鋼種別生産では、▽普通鋼が634.7万トン(同3.3%増)となり、同13ヵ月ぶりの増加。▽特殊鋼が196.7万トン(同9.1%増)となり、同28ヵ月ぶりの増加となった。
▽熱感圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は739.5万トン(同4.9%増)となり、同33ヵ月ぶりの増加。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は571.7万トン(同2.4%増)となり、同13ヵ月ぶりの増加。▽特殊鋼熱感圧延鋼材の生産は167.8万トン(同14.6%増)となり、同3ヵ月連続の増加となった。
一方、2月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は45万4,076トン(同12.7%増)となった。うち▽非住宅用が33万4,336トン(同18.7%増)となり、▽住宅用が11万9,740トン(同1.2%減)となった。
なお、20年度(4~2月)の建築用は548万1,816トン(同4.6%増)となった。うち▽非住宅が379万8,069トン(同4.6%増)となり、▽住宅が168万3,747トン(同6.4%増)となった。


2020年度の粗鋼生産量8,279万トン(前年度比15.9%減)
71年度の8,844万トン以来の低水準

日本鉄鋼連盟は4月22日に発表した2020年度の銑鉄生産は6,077.7万トンと前年比19.0%減となり、6年連続減となった。粗鋼生産は8,279.3万トン(前年度比15.9%減)となり、4年連続減となった。71年度の8,844.1万トン以来の9,000万トン割れとなった。
炉別生産では、▽転炉鋼が6,141.6万トン(同18.0%減)となり、4年連続減。▽電炉鋼が2,137.6万トン(同9.1%減)となり、2年連続減となった。粗鋼に占める電炉鋼比率は25.8%と前年比1.9ポイント上昇した。
鋼種別では、▽普通鋼が6,533.9万トン(同13.4%減)となり、7年連続減。▽特殊鋼が1,745.4万トン(同24.1%減)となり、3年連続減となった。▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)生産は7,350.6万トン(同14.8%減)となり、4年連続減。鋼種別にみると▽普通鋼が5,869.7万トン(同13.5%減)となり、4年連続減。▽特殊鋼は1,480.9万トン(同19.8%減)となり、2年連続減となった。


2月溶接材料の出荷量1万6,851トン(前年同月比5.4%減)
20年度(4~2月)出荷量18万2,878トン(前年同期比19.6%減)

日本溶接材料工業会が発表した2021年2月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万6,888トン(前年同月比8.0%減)の前年同期比14ヵ月連続減。出荷量は1万6,851トン(同5.4%減)の同14ヵ月連続減。在庫量は1万6,478トン(同17.7%減)となり、同4ヵ月連続減となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が6,781トン(同8.1%減)の同14ヵ月連続減。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が5,644トン(同16.9%減)の同14ヵ月連続減。▽被覆アーク溶接棒が1,982トン(同2.2%増)の同13ヵ月ぶりの増加となった。その他を含む生産量計では1万6,888トン(同8.0%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが6,847トン(同1.1%減)の微減となったが、同14ヵ月連続減。▽FCWが5,689トン(同12.7%減)の同14ヵ月連続減。▽溶接棒が1,988トン(同2.2%減)の同14ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計では1万6,851トン(同5.4%減)となった。
在庫量の主品種は▽SWが5,683トン(同20.2%減)の同2ヵ月連続減。▽FCWが6,168トン(同11.7%減)の同3ヵ月連続減。▽溶接棒が2,338トン(同22.9%減)の同6ヵ月連続減となった。その他を含む在庫量計では1万6,478トン(同17.7%減)となった。
20年度4~2月の生産量は17万8,498トン(前年同期比22.2%減)となり、出荷量は18万2,878トン(同19.6%減)となった。財務省の貿易統計による2月の溶接材料輸入量は5,552トン(同25.4%増)、輸出量は2,213トン(同1.7%減)となった。

20年2月-21年2月 溶接材料月別実績表

生産量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆  溶接棒 前年比 合 計 前年比
2020年 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
2020年度 4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
9 57,17 ▼36.6 6180 ▼22.4 1775 ▼26.7 15,740 ▼29.6
10 6,997 ▼22.9 5,829 ▼27.9 1,728 ▼25.6 17,120 ▼23.5
11 7,528 ▼16.6 5,855 ▼20.3 1,845 ▼9.2 17,429 ▼17.8
12 6,637 ▼24.1 5,297 ▼27.1 1,660 ▼30.0 16,014 ▼25.3
2021年 1 6,028 ▼18.5 5,346 ▼20.2 1,803 ▼13.5 15,419 ▼17.9
2 6,781 ▼8.1 5,644 ▼16.9 1,982 2.2 16,888 ▼8.0
2020年度(4-2月) 62,051 ▼27.4 64,141 ▼20.0 20,628 ▼17.4 178,498 ▼22.2

単位/トン

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆 溶接棒 前年比 合 計 前年比
2020年 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
2020年度 4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
9 6,374 ▼28.3 6,089 ▼19.5 2,028 ▼14.3 16,579 ▼23.2
10 6,710 ▼21.2 5,757 ▼26.1 1,900 ▼11.0 16,897 ▼23.2
11 7,171 ▼10.5 5,929 ▼18.9 1,814 ▼11.7 17,209 ▼15.0
12 7,143 ▼16.9 5,615 ▼25.1 1,918 ▼23.9 17,022 ▼21.3
2021年 1 6,932 ▼1.0 5,878 ▼15.3 1,838 ▼17.4 17,053 ▼9.1
2 6,847 ▼1.1 5,689 ▼12.7 1,988 ▼2.2 16,851 ▼5.4
2020年度(4-2月) 69,208 ▼23.7 65,300 ▼18.8 21,515 ▼14.1 182,878 ▼19.6

単位/トン

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
MM53街区プロジェクト/大林組で着工
WEST30階・EAST16階建て、延べ床18万平方

 横浜副都心のみなとみらい(MM21地区)中央地区にツインタワーの「MM53街区プロジェクト」が着工した。建設地は西区みなとみらい5-1-1ほか(53街区の敷地2万0,621平方メートル)。事業者は、みなとみらい53SPC(大林組が代表、京急電鉄、日鉄興和不動産、ヤマハ、みなとみらい53EAST合同会社)。
同プロジェクトは、みなとみらい線「新高島」駅のすぐそばに位置する用地で、JR・東急・京急線など横浜駅ターミナルからも徒歩10分程度、また羽田国際空港まで京急線で約30分。首都高速道路の東神奈川ICも近く、交通アクセスの利便性を有している。
ツインタワーの建築概要は、▽WEST棟はS造・SRC造、地下1階・地上30階・塔屋2層建て(オフィス、オープンイノベーションスペース、店舗施設など)、高さ153メートル。▽EAST棟はS造・SRC造、地下1階・地上16階・塔屋1層建て(ホテル、オフィス、カンファレンス施設、オープンアトリウム、店舗施設など)、高さ85.5メートルの2棟構成。総延べ床面積約18万3,132平方メートル。設計・施工は大林組。2棟の完成は24年3月の予定。
同プロジェクトと54街区の「横浜グランゲート」との間にキング軸(横浜市が設定している歩行者軸)があり、計画では両街区が一体化した広場が形成され、双方の建物がデッキで連結される予定。また、WEST棟とEAST棟を繋ぐ、2階に設置される広いペデストリアンデッキ。このデッキは、横浜グランゲートとも連結される。さらに、既存のすずかげ通り歩道橋とも連結されるのでグランモール公園直通となる。
周辺に設置するコモンスペースでは多彩なイベントを開催するなど、周辺街区を含めたエリア全体のにぎわいを創出する。また、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)横浜Sランクの認証取得は、帰宅困難者受け入れスペースの計画、エリアマネジメント組織の組成による周辺街区企業との連携などがポイントとなった。


連載/あの人、この人(13)
M氏のスケッチ&エッセー集

拙宅書架にエッセー集『風に誘われ南へ西へ」』(1994年7月発刊)があり、表紙装丁の絵はアンダルシア地方の石造りの家並みが曲がり、「その先に何かある」ことを想わせる構図。著者は構造設計者のM氏。出版に際し、故髙須賀洋三氏が多大な尽力で刊行した珠玉のエッセー集である。
M氏と出会ったのは88年11月、N設計事務所・設計本部構造専門部長。鋼構造誌の「月刊・T技術」12月号の巻頭座談会「脚光を浴びるTMCP鋼の全貌」の司会をお願いし、出席者の鉄鋼・設計・ゼネコン・ファブ技術者それぞれの立場での発言や見解を引き出す絶妙な進行ぶりに感心した。後の90年1月号よりM氏による「スケッチ&エッセー」連載によって親密なお付き合いとなった。
本誌(T技術)が協賛する「英国鉄構業界視察とバルセロナ五輪施設見学」(89年11月)に、M氏も参加。主催者はT企画のY社長。Y氏はK重工業を脱サラし、技術コンサルタント会社を興し、本誌に「ファブ工場訪問記」を連載し、その海外版を英国ファブ2社取材と欧州鉄構事情を訪ねる企画だった。
参加者は設計・商社・ファブ・建築資材メーカーなど十数名。中でもM氏はスペイン語堪能のため、スペイン・バルセロナでは視察メンバー数名とのショッピング、市内探索や本場フラメンコダンス場などの案内と通訳をした上に、さらに欧州の石建築などの話などをして頂き、すっかりお世話になった。
当時の欧州便はアンカレッジ経由のため18時間余り空路。帰国便でM氏と隣席となり、構造設計や海外体験談、さらに出自経歴や趣味などさまざまな話に及んだ。M氏は6歳年上だが、気さくで話題が豊なため充実した機内となった。前年4月に21歳長男と16歳長女を残し、奥様を亡くされて父子家庭だったが旅行中も、その後の交流の場でもそんな素振りは少しも感じられなかった。
機内で最も記憶に残った話は、77年国際協力事業団の設計調査で南米パラグアイ出張の話。「パラグアイ女性はスペイン人との混血美人が多く、体系も日本人と変わらず、しかも情熱的。地元のことわざに『木を揺すると女が3人降ってくる』というほど女性が多く、女護ヶ島状態になっている。パラグアイは1864~70年にアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイとの戦い、また1932~38年にボリビア(グラン・チャコ戦争)との戦いで多くの戦死者を出したため、男が少ない国」と、夢のような話だった。
親近感を感じたのが、M氏は41年~50年5月(中学3年)まで9年間、長野県内に転居していた。私も43年~51年7月(小学4年)まで8年間、長野県内に疎開していたため、学校で習った県歌「信濃の国」(♪信濃の国は十州に 境連ぬる国にして~)をお互いに覚えており、哀愁に浸ったことである。
博識で説得力があり、しかも学生時代は文章や絵が得意だったと聞き稀少な人に出会ったと思ったので、その時、間髪入れずにエッセーと挿絵の企画で連載案をお願いし、後日正式に承諾を頂けた。かねてから建築技術関係者に随想企画していた矢先だったのでラッキーな出会いとなった。
M氏の略歴は、1935年10月の徳島県生まれだが、父親が鉄道省(旧国鉄の前身)土木技師で各地に転居。父の在所・沖縄県で幼児期に過ごしたため、「私の出身地は沖縄」と自負する。59年早大学・建築学科で稲門建築会賞と内藤賞受賞。首席で卒業し、T建設入社する。68年N設計事務所(現N設計)に転社。構造設計部門で数々の業績を挙げる。趣味は絵画・書道、中南米音楽鑑賞など。
さて、M氏との密接な交流はエッセーの締切日と著者校正日。女性編集員のWさんの担当だが、来社して頂く度に私も同席し、掲載後の読者からの反響や評価などを含めた話になる。どの執筆者も担当編集者も、読者評価が一番気になるが、M氏のエッセーは最初から順調で読者評価が高かった。
だがM氏はN設計・設計本部指導部長としての業務多忙な日々の中で、毎月2,600~3,000字の文章とスケッチとなると締切日が直にくる。締め切りギリギリで文章のみで、スケッチは後日の校正時にといった綱渡りもたびたびだった。持ち前の几帳面さと読者評価に支えられ、延べ50回連載をして頂けた。できれば、もっと続けて欲しかったが、業務と両立は厳しかったのかもしれない。
スケッチ画の技法は、版画用の和紙に水性・油性サインペンと鉛筆・絵筆を水彩画のようなに綿布と水を巧みに使って滲ませながらぼかすもので、M氏流画法というもので独特の味わいを醸し出す。
エッセーの内容は、実務の構造設計や手がけた建築作品や政治・経済などは一切無く、ご自身の体験・身辺話、紀行・歴史、スポーツ・雑学、スペイン・中南米・沖縄編、謎学・人物編などさまざまで毎号が楽しみになる。本人は「テーマが決まるまではいろいろ悩むが、決まれば一気に書き上げる」と言う、その文才は羨ましい限り。文章は、書く人の個性・人柄や思想・心情まで現れると言われる。M氏はバランス感覚も素晴らしく、どの回をとっても、誰が読んでも共感を覚える内容となっていた。
掲載が4年続いた時、私からスノウチの髙須賀社長に「M氏のエッセーを単行本化にしたい」と相談したところ、即座に「私も(出版を)考えていた。あなたが進めるなら全面協力する」と快諾。早速、旧知のM建設のM技術部長(代理)を交えた3人が幹事役となり、建築界大御所のF先生(東京工大名誉教授、前神奈川大学長)を会長に著名な建築・構造関係者ら9名による「出版の会」を設けた。
出版の会の実務を引き受けたのがスノウチ嘱託のKさんと髙須賀社長。制作資金捻出ため、出版の会の強力なメンバーの推薦名簿を手分けして作成し、その関係会社にDMによる予約販売を募った。幸いM氏の功績や読者ファンも多く、予想を上回る部数の注文となり出版に漕ぎつけた。
エッセー集の「あとがき」でM氏は、「読者の反響の大きかったのは、『東名高速全面閉鎖』『がん告知』『地球の裏のヴィーナス』『妖精ヘップバーン永遠の羽休め』『意外と知らないビールの話』『日本酒ロマンが始まった』とあり、死・女・酒に関するテーマだった」と記述している。
94年8月東京駅・八重洲口のホテルで、『風に誘われ南へ西へ』出版記念パーティを催した。F先生をはじめ建築学会・団体・設計・ゼネコン・鉄鋼・商社・副資材・ファブ・検査などの関係者240余人が参集し長女・エリナさんも出席され、上梓を祝った。M氏にとって華やかなひと時だった。
その後、講習会場や新年会・懇親会でお逢いし、いつもと変わらぬ気さくな話ができることを楽しみにしていたが、私が現役をリタイアし、その機会も無くなり、年賀状交換のみとなる。M氏と巡り合って多くのことを学んだ。人伝に聴くと「元気で活躍している」とのこと。今年の年賀状の絵は「サンタ・マリア門(スペイン)」だった。スケッチを楽しむ人生を謳歌されていると思います。
【中井 勇】