スノウチニュース<№194> 令和2年12月


【鉄骨需要月別統計】
10月鉄骨需要量は33万3,700トン(前年同月比10.6%減)
20年4~10月で243万1,200トン(前年同月比14.8%減)

国土交通省が11月30発表した「建築物着工統計調査」の2020年10月着工総面積は9,613千平方メ―トル(前年同月比9.4%減)となり、前年同月対比で14ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは今年に入って8回目となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が388千平方メートル(同35.2%減)の大幅減となり、同5ヵ月ぶりの減少となった。▽民間建築物は9,225千平方メートル(同7.9%減)となり、同14ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,978千平方メートル(同10.7%減)となり、同14ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,635千平方メートル(同7.3%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,284千平方メートル(同10.7%減)となり、同7ヵ月連続減となった。▽SRC造は107千平方メートル(同2.9%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。
一方、▽RC造は1,752千平方メートル(同5.7%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽W造は4,411千平方メートル(同9.2%減)となり、同15ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は32万8,400トン(前年同月比10.7%減)となり、同7ヵ月連続減となった。SRC造は5,350トン(同2.9%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。鉄骨造計では前月比0.5%減の33万3,750トン(同10.6%減)となった。
20年度4~10月でのS造は238万0,500トン(前年度同期比15.3減)、SRC造は5万0,700トン(同18.9%増)となり、鉄骨造合計では243万1,200トン(同14.8%減)となった。

20年12月鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2019/10 367,900 -16.4 5,500 -44.5 373,400 -17.1
11 351,000 -14.8 4,650 12.4 355,650 -14.6
12 402,700 2.6 5,400 -29.7 408,100 2.0
2020/1 266,100 -296 5,350 65.9 271,450 -28.8
2 300,000 -20.2 10,400 56.6 310,400 -18.9
363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
10 328,400 -10.7 5,350 -2.9 333,750 -1.8
暦年計(20/1~10) 3,310,400 -15.2 71,400 23.7 3,381,800 -14.6
年度計(20/4~10) 2,380,500 -15.2 50,700 18.9 2,431,200 -14.8

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連10月総受注額約9,760億円(前年同月比1.6%減)
民間工事は6,576億2,800万円(同12.2%減)

日本建設業連合会(日建連)が11月30日に発表した会員企業95社の2020年10月受注工事総額は9,759億5,300万円(前年同月比1.6%減)となり、前年同月比では2ヵ月連続減となった。うち民間工事は6,576億2,800万円(同12.2%減)となり、同2ヵ月連続減となった。官公庁工事は3,172億4,300万円(同48.4%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
国内工事は9,759億2,700万円(同1.3%増)の微増となり、同1ヵ月で増加となった。民間工事の6,576億2,800万円のうち、▽製造業が1,158億0,700万円(同29.8%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽非製造業は5,418億2,100万円(同7.2%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
官公庁工事の3,172億4,300万円のうち、▽国の機関が2,074億3,100万円(同71.9%増)の大幅増となり、同5ヵ月連続増となった。▽地方の機関は1,098億1,200万円(同17.9%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽その他が10億5,600万円(同36.1%増)となり、同6ヵ月ぶりの増加となった。▽海外工事は2,600万円(同99.9%減)の大幅減となり、同7ヵ月連続減となった。
20年度(4~10月)の総受注総額が6兆4,656億0,800万円(前年度同期比8.9%減)となった。民間工事が4兆7,3997億8,400万円(同15.0%減)、官公庁工事が1兆9,729億0,700万円(同20.8%増)、海外工事が658億8,700万円(同74.5%減)となった。
一方、10月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道254億5,200万円(前年同月比13.0%増)となり、前年同期比で2ヵ月連続増となった。▽東北488億9,300万円(同0.6%減)の微減となり、同4ヵ月ぶりの減少となった。▽関東4,598億7,100万円(同5.7%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽北陸388億円4,100万円(同51.2%増)の大幅増となり、同4ヵ月ぶりの増加となった。
▽中部724億1,500万円(同0.1%増)の微増となり、同5ヵ月ぶりの増加となった。▽近畿1,975億1,100万円(同19.8%増)となり、同1ヵ月で増加に転じた。▽中国302億5,800万円(同16.0%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽四国133億2,000万円(同54.3%減)の大幅減となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽九州893億5,100万円(同17.8%増)となり、同4ヵ月ぶりの増加となった。


10月粗鋼生産量720万トン(前年同月比11.7%減)
9月普通鋼建築用54万トン(前年同月比13.7%増)
20年上期の普通鋼建築用289万トン(前年同期比0.9%減)

日本鉄鋼連盟が11月24日に発表した2020年10月の 銑鉄生産は511.6万トン(前年同月比16.1%減)となり、前年同月比8ヵ月連続減。粗鋼生産は720.0万トン(同11.7%減)となり、同8ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が530.2万トン(同13.1%減)となり、同8ヵ月連続減。▽電炉鋼が189.8万トン(同7.3%減)となり、同20ヵ月連続減となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が573.2万トン(同8.7%減)となり、同8ヵ月連続減。▽特殊鋼が146.8万トン(同21.7%減)となり、同23ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は646.7万トン(同11.3%減)となり、同28ヵ月連続減となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は508.2万トン(同11.6%減)となり、同8ヵ月連続減となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は138.5万トン(同10.6%減)となり、同22ヵ月連続減となった。
一方、9月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は53万9,539トン(同13.7%増)となった。うち▽非住宅用が37万2,674トン(同13.1%増)となり、▽住宅用が16万6,865トン(同15.0%増)となった。
20年度上期(4~9月)の建築用は288万9,389トン(同0.9%減)となった。▽非住宅が205万3,183トン(同1.5%増)となり、▽住宅が83万6,206トン(同6.4%減)となった。


9月溶接材料の出荷量1万6,579トン(前年同月比23.9%減)
20年度上期の出荷量9万7,846トン(前年同期比23.3%減)

日本溶接材料工業会が発表した2020年9月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万5,740トン(前年同月比29.6%減)となり、前年同期比では9ヵ月連続減となった。出荷量は1万6,579トン(同23.2%減)となり、同9ヵ月連続減となった。在庫量は1万8,640トン(同6.5%増)となり、同9ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が5,717トン(前年同月比36.6%減)となり、前年同月比では9ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,180トン(同22.4%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が1,775トン(同26.7%減)となり、同8ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万5,740トン(同29.6%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが6,374トン(同28.3%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽FCWが6,089トン(同19.5%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽溶接棒が2,028トン(同14.3%減)となり、同9ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万6,579トン(同23.2%減)となった。建築鉄骨の需要減が溶接材料の出荷に大きく影響している。
在庫量の主品種は▽SWが6,515トン(同40.0%増)となり、同9ヵ月連続増となった。▽FCWが7,065トン(同5.2%増)となり、同4ヵ月連続増となった。▽溶接棒が2,778トン(同5.8%減)となり、同7ヵ月ぶりの減少となった。その他を含む在庫量計は1万8,640トン(同6.5%増)となった。
20年度上期(4~9月)の生産量は9万5,628トン(前年同期比24.9%減)となり、出荷量は9万7,846トン(同23.3%減)となった。出荷量のうち▽SWが3万4,405トン(同33.3%減)、▽FCWが3万6,432トン(同17.9%減)、▽溶接棒が1万2,057トン(同14.4%減)となった。
なお、財務省の貿易統計による9月溶接材料の輸出量が2,335トン(前年同月比21.9%減)、輸入量が4,388トン(同28.3%減)となった。

19年9月-20年9月 溶接材料月別実績表

単位/トン

生産量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被覆溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 9 9,015 9.4 7,963 17.8 2,421 ▼1.2 22,364 9.4
(令和元年) 10 9,078 ▼4.6 8,090 ▼1.1 2,322 9.8 22,375 ▼2.5
11 9,024 ▼0.6 7,343 ▼6.2 2,033 ▼18.8 21,212 ▼5.3
12 8,743 10.3 7,263 2.1 2,370 13.8 21,431 8.7
2020年 1 7,398 ▼6.7 6,637 ▼3.3 2,085 10.7 18,771 ▼7.2
(令和2年) 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
9 5717 ▼36.6 6180 ▼22.4 1775 ▼26.7 15,740 ▼29.6
2020年度(上期) 33,797 ▼34.6 36,170 ▼18.0 11,610 ▼18.3 95,628 ▼24.9

 

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被覆溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 9 8,885 13.8 7,560 10.2 2,367 ▼6.1 21,597 7.2
(令和元年) 10 8,512 ▼11.1 7,792 3.7 2,136 ▼11.1 21,348 ▼6.5
11 8,012 ▼10.8 7,315 ▼3.2 2,054 ▼13.4 20,246 ▼7.9
12 8,596 8.9 7,498 4.1 2,519 31.1 21,619 9.5
2020年 1 7,000 ▼8.4 6,941 ▼6.7 2,224 ▼8.4 18,758 ▼11.9
(令和2年) 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
9 6374 ▼28.3 6089 ▼19.5 2028 ▼14.3 16,579 ▼23.2
2020年度(上期) 34,405 ▼33.3 36,432 ▼17.9 12,057 ▼14.4 97,846 ▼23.3

日本溶接材料工業会

【建築プロジェクト】
東神開発3棟目の流山おおたかの森B43街区の商業施設
S造、地下1階・4階建、延床2万0,500平米は12月フジタで着工

東神開発( 高島屋子会社)は、千葉県流山市のつくばエクスプレス(TX)・東武野田線流山おおたかの森駅西口近くに新築する商業施設「流山おおたかの森B43計画」(同市おおたかの森西1-13-1ほか(新市街地B43街区)の敷地4,122平方メートル。施設名は「流山おおたかの森S・C ANNEX2」で、設計は楠山設計が担当。施工をフジタで12月から着工し、22年夏の完成をめざす。
施設規模はS造、地下2階・地上4階・塔屋1層建て、延べ床面積約2万0,500平方メートル。近隣とのコミュニケーションモールとして地下1階と2階に平面駐車場、地上1階に生鮮専門のスーパー、2階と3階にインテリアや雑貨店、4階にキッズ、カルチャーなどの店舗施設を設け、屋上にはスポーツ関連施設を配置する。
流山おおたかの森駅周辺は都心からのアクセスが良いため多くの商業施設やホテル、マンションなどが建設され、駅南口A3街区で建設中の商業施設「流山おおたかの森S・C FLAPS」はS造、地下1階・地上6階建て、延べ床面積約1万1,300平方メートル(設計がマウントフジアーキテクツスタジオ)もフジタが施工し、21年春に完成。07年に完成している流山おおたかの森ショッピングセンター(設計・施工が大成建設)とデッキで接続する。
一方、駅西口広場に接するB45街区では、複合ビル「NAGAREYAMAおおたかの森GARDENSアゼリアテラス」はS造、地上10階建て、延べ床面積約1万0,200平方メートル(設計が小堀哲夫建築設計事務所、施工が錢高組)も建設中で、21年秋に完成する。物販・飲食店舗、保育所、クリニック、多様な働き方に対応できるオフィスなどを配置する。
東神開発の3棟のほか、駅西口B35街区には大和ハウス工業の商業施設がS造、地上3階・塔屋1層建て2棟構成、延べ床面積約3万3,140平方メートル(21年度完成)。その隣接地にはオーランド観光開発が竜泉寺の温浴施設を建設中で、S造、地上6階建て、延べ床面積約1万6,851平方メートル(21年春完成)。B45街区には東横インがビジネスホテルS造、地上13階建て、延べ床面積約2,860平方メートルが今冬に完成する。


連載/あの人、この人(8)
破天荒な男との絆

師走になると想い出すのは、大阪時代(1980~88年)の暮れは神戸・有馬温泉1泊の忘年会。その呑み仲間はM電器系列のM冷機・製造課長のIさんと、その部下6~8名とIさんとごく親しい数人のメンバー。無礼講の一夜を明けた朝膳にビールびんや酒徳利が並ぶ光景が当たり前だった。朝酒の酔いも手伝って、興に乗れば宝塚・仁川の阪神競馬場に繰り出す仲間たちであった。
Iさんの酒席は豪快で楽しい。キタやミナミのスナックやバー、クラブを呑み歩き、どこに行っても座持ちがよく、話題も面白いので店からも歓迎された。東京に戻ってからもシーズンになると「おぬしには是非出席してもらいたい」と言われ、有馬温泉まで何度か出向く良き時代の記憶が蘇る。
そのIさんとの出会いは、80年春の大阪赴任して間もなく、東京のロウ材メーカー・大阪営業所長から「IさんはM冷機の偉いさんや」と紹介された。Iさんは、私が14年間在籍した総合出版・S社が企画した欧州溶接視察団に参加しており、その時の体験談からはじまって意気投合。4つ年上のIさんとの出会いは、大阪の土地勘も人脈もない私にとって頼りになる兄貴分と直感した。爾来、Iさんが私を「おぬし」と呼ぶ仲になり、Iさんの部下や知人を含めた付き合いとなる。
Iさんの勤めるM冷機は、前身のN電機を大手M電器が72年に子会社化したことにより、業務用や家庭用エアコンの生産台数はうなぎ上りの勢いとなり、無人生産ライン化をはじめ、技術革新や技能者育成などにIさんは持ち前の親分肌を発揮し、アイデアとガッツで部下を引っ張ってきた。それでも「N電機だからわしが採用されたが、M冷機だったら(採用は)無理やった」と自嘲的に語る。
親分肌は学生時代からで、「〇〇のトラ」と言われ、一目置かれていたらしい。出会った時は43歳の働き盛りで部下数十人の良き上司であり、頼りがいのある管理職。呑み仲間との集まりにも係長や主任クラスもおり、酒席でも俄かに仕事の話になったりするのでロウ付け知識の参考になった。
冷凍機やエアコンの心臓部は熱交換器であり、その銅合金パイプを「ロウ付け」工程が一番難しく、施工技術と技量によって空調性能・耐久性などが異なってくる。接合する材料のリン銅ロウ材や自動ガス加熱装置などの開発にも加わり、M冷機製業務用では業界のトップを君臨する。その陰には技術バックアップするロウ材メーカーやガス機器メーカー、高圧ガスメーカーの仲間たちの存在もあった。
東京に戻って8年を過ぎた97年の秋、新幹線で名古屋に移動中、大阪の呑み仲間から携帯で「あのな~。Iさんが亡くなったで!」の訃報が入った。通夜に間に合わず、東大阪市内の寺院境内での告別式に出席できた。例の呑み仲間を含め、Iさんを慕う大勢の弔問者が集まった。訃報をくれた友人が「あの読経している若い坊さん、Iさんの長男やで。それも和宗総本山の四天王寺さんの僧侶や!」と耳打ち。仕事柄、葬儀参列も多かったが、息子の読経で弔われるのは初めてだ。日本仏法最初官寺の僧侶となればなおさら驚く。その長男が高校時、Iさんは奈良の両親と妻子6人を残し、入院中に知り合った看護師と長いこと同棲していたのだ。
部下や仲間内とつるんで呑み歩くのは(家族との別離が)言い知れぬ空虚さがそうさせているように思われる。Iさん30代後半、住友病院に胃潰瘍で入院・手術する。見舞客や面会者が入れ替わり立ち代わりくるため看護師さんらが驚き、「Iさんは、何をしている人。有名なお人ですか」と言わせるほどだったという。退院後、周りが心配するも相変わらずの呑み歩く日々だった。50歳前で2度目の胃ガンで入院し、胃の3分の2を切除。退院後、日増しに酒量を増すなど、まったく懲りない人であった。
「わしな、好き勝手な人生を送っている。こうして気の合った仲間と胸襟を開いて呑むのが一番や」と虚無的な話の一方、「そうや、わし還暦後の年金生活が楽しみや!」などとも殊勝なことも。ところが50を幾つか過ぎたころ唐突にM冷機を早期退職し、呑み仲間を驚かす。「わしなりに滅私奉公した。お前ら(部下が)育っている。これから好きな仕事をしながら悠々自適の人生じゃ」と屈託なかった。
会社組織を離れたIさんだが、技術力を買われ業務用ミシンメーカーの技術開発に尽力し、知人の頼みで食品製造ラインの技術指南役で働くなど第二の人生を謳歌していたが、ガンが再発し他臓器に転移する。その時も友人から「Iさんな、また住友病院に入院したで~」との知らせがあったが、見舞いにも行かず「きっと完治する」と楽観視していた。だが、ガンが全身を襲い、楽しみにしていた年金生活も叶わず、十数年の同棲していた彼女に看取られながらの破天荒な生涯を閉じた。
大阪の兄貴分にもかかわらず「なぜ家族と別居」したのかを聞き出せなかった。頑固ながら誰にでも義理人情に篤い人が、奈良の実家で暮らす育ち盛り子どもや高齢両親を妻ひとりに託し、家を出るには余ほどの深い理由や出来事があったに違いないと、思えば口には出せなかった。
そんなIさんの葬儀を「I家」として執り行われ、喪主(奥様)と長男の読経で弔われた。私らと一緒の席で悲しみを堪える彼女にお悔やみとねぎらいをかけての惜別だった。Iさんの生きざまは、あの河島英五の「酒と泪と女と男」「時代おくれ」の歌詞を地で行っているように思われた。
Iさんの遺志がともあれ立派な葬儀で弔問者や呑み仲間らも安堵した。後に「I家への訃報は彼女が伝えた。I家は葬儀を実家近くでなく、長男の伝手で東大阪の寺院を選んだ」と聴いた。
【中井 勇】