スノウチニュース<№192> 令和2年10月


【鉄骨需要月別統計】
8月の鉄骨需要量は29万4,100トン(前年同月比30.6%減)
20年度4~8月は174万8,100トン(前年同期比17.7%減)

国土交通省が9月30発表した「建築物着工統計調査」の2020年8着工総面積は9,414千平方メ―トル(前年同月比15.7%減)となり、前年同月対比で12ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは4ヵ月連続となった(注:4月の建築面積は9,992平方メートルから10,093千平方メートルに訂正された)。
▽建築主別は、▽公共建築物が449千平方メートル(同5.1%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽民間建築物は8,964千平方メートル(同16.5%減)となり、同12ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,752千平方メートル(同19.9%減)となり、同12ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,662千平方メートル(同8.2%減)となり、同5ヵ月連続減となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は2,914千平方メートル(同30.8%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減となった。▽SRC造は54千平方メートル(同7.8%減)の低水準ながら、同1ヵ月で増加となった。
一方、▽RC造は2,287千平方メートル(同9.9%増)となり、同6ヵ月ぶりの増加となった。▽W造は4,099千平方メートル(同13.9%減)となり、同13ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は29万1,400トン(前年同比30.8%減)となり、30万トン割れは2011年2月の27万7,800トン以来の低水準となった。SRC造は2,700トン(同7.8%増)となったが、低水準が続いている。鉄骨造計では前月比17.5%減の29万4,100トン(前年同月比30.6%減)となった。
20年度4~8月の鉄骨造は174万8,100トン(前年度同期比17.7減)、20年1~8月では269万8,700トン(前年同期比16.5%減)となった。

20年10鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2019/8 421,100 -4.0 2,500 64.5 423,600 -3.7
9 348,300 -18.1 7,600 29.7 355,900 -17.5
10 367,900 -16.4 5,500 -44.5 373,400 -17.1
11 351,000 -14.8 4,650 12.4 355,650 -14.6
12 402,700 2.6 5,400 -29.7 408,100 2.0
2020/1 266,100 -296 5,350 65.9 271,450 -28.8
2 300,000 -20.2 10,400 56.6 310,400 -18.9
363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
暦年計(20/1~8) 2,645,200 -17.0 53,500 20.0 2,698,700 -16.5
年度計(20/4~8) 1,715,300 -17.8 32,800 11.2 1,748,100 -17.7

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連の8月総受注額約8,774億円(前年同月比21.4%増)
民間工事は6,610億1,500万円(同42.6%増)

日本建設業連合会(日建連)が9月29日に発表した会員企業95社の2020年8月受注工事総額は8,774億1,300万円(前年同月比21.4%増)となり、前年同月比では6ヵ月ぶりの増加となった。うち民間工事は6,610億1,500万円(同42.6%増)となり、同8ヵ月ぶりの大幅増となった。官公庁工事は2,046億6,500万円(同10.6%減)となり、同5ヵ月ぶりの減少となった。
国内工事は8,709億5,500万円(同24.3%増)の大幅増となり、同6ヵ月ぶりの増加となった。民間工事の6,610億1,500万円のうち、▽製造業が956億0,300万円(同10.0%減)となり、同3ヵ月連続減となった。▽非製造業は5,654億1,200万円(同58.2%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加となった。
官公庁工事の2,046億6,500万円のうち、▽国の機関が1,525億4,500万円(同3.5%増)となり、微増ながら同3ヵ月連続増となった。▽地方の機関は521億2,000万円(同36.1%減)の大幅減となり、同2ヵ月で減少となった。▽その他が52億7,500万円(同32.6%減)の大幅減となり、同4ヵ月連続減となった。▽海外工事は64億5,800万円(同71.3%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減となった。
20年度4~8月の受注総額が4兆1,995億9,500万円(前年度同期比11.3%減)、民間工事が2兆8,538億7,500万円(同15.8%減)、官公庁工事が1兆2,654億8,900万円(同12.6%増)、海外工事が564億3,400万円(同70.9%減)となった。
一方、8月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道242億4,900万円(前年同月比39.8%減)となり、前年同期比では3ヵ月ぶりの大幅減。▽東北709億7,900万円(同14.9%増)となり、同2ヵ月連続増。▽関東3,863億2,700万円(同44.3%増)となり、同6ヵ月ぶりの大幅増。▽北陸327億円1,600万円(同16.2%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
▽中部708億1,600万円(同8.6%減)となり、同3ヵ月連続減。▽近畿1,759億4,100万円(同71.6%増)となり、同2ヵ月連続の大幅増。▽中国498億7,600万円(同22.0%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加。▽四国104億2,500万円(同94.6%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加。▽九州496億1,400万円(同24.1%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
*訂正:9月号の日建連受注記事で、2020年度4~7月の官公庁工事が1兆7,595億1,200万円(同18.5%増)は間違いで、1兆608億2,400万円(同18.5%増)に訂正します。


8月粗鋼生産644.6万トン(前年同月比20.6%減)
7月普通鋼建築用49.5万トン(前年同月比0.4%増)

日本鉄鋼連盟が9月24日に発表した2020年8月の銑鉄生産は477.0万トン(前年同月比25.6%減)となり、前年同月比で6ヵ月連続減となった。粗鋼生産は644.6万トン(同20.6%減)となり、同6ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が489.5万トン(同22.9%減)となり、同6ヵ月連続減。▽電炉鋼が155.1万トン(同12.2%減)となり、同18ヵ月連続減となった。
鋼種別生産では、▽普通鋼が528.4万トン(同15.7%減)となり、同6ヵ月連続減。▽特殊鋼が116.2万トン(同37.3%減)となり、同21ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は585.8万トン(同19.3%減)となり、同26ヵ月連続減。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は480.4万トン(同16.6%減)となり、同6ヵ月連続減。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は105.4万トン(同29.8%減)となり、同20ヵ月連続減となった。
一方、7月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は49万5,261トン(同0.4%増)となった。うち▽非住宅用が37万5,481トン(同11.0%増)、▽住宅用が11万9,780トン(同22.7%減)となった。20年度4~7月の建築用は188万7,706トン(同4.9%減)、▽非住宅が135万6,267トン(同2.1%減)、▽住宅が53万1,439トン(同11.9%減)となった。


7月溶接材料の出荷量1万5,937トン(前年同月比31.0%減)
20年上期の出荷量10万5,653トン(前年同月比16.9%減)

日本溶接材料工業会が発表した2020年7月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万6,173トン(前年同月比31.5%減)となり、前年同期比では7ヵ月連続減となった。出荷量は1万5,937トン(同31.0%減)となり、同7ヵ月連続減となった。在庫量は2万0,678トン(同15.9%増)となり、同7ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が5,091トン(前年同月比48.7%減)となり、前年同月比では7ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,212トン(同26.0%減)となり、同7ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が2,227トン(同3.8%減)となり、同6ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万6,173トン(同31.5%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが4,948トン(同48.2%減)となり、同7ヵ月連続減となった。▽FCWが5,948トン(同26.9%減)となり、同7ヵ月連続減となった。▽溶接棒が2,044トン(同11.1%減)となり、同7ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万5,937トン(同31.0%減)となった。新型コロナウイルス感染による需要減が響いている。
在庫量の主品種は▽SWが7,414トン(同50.9%増)となり、同7ヵ月連続増となった。▽FCWが7,416トン(同8.2%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽溶接棒が3,330トン(同14.1%増)となり、同5ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計は2万0,678トン(同15.9%増)となった。
なお、20年度(4~7月)の生産量は6万6,060トン(前年同期比23.7%減)となり、出荷量は6万6,240トン(同23.4%減)の減少となった。

19年7月-20年7月 溶接材料月別実績表

単位/トン

生産量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆  溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 7 9,917 17.5 8,397 15.9 2,314 24.5 23,626 15.4
(令和元年) 8 7,378 1.5 5,974 ▼14.6 2,141 ▼3.3 18,338 ▼4.9
9 9,015 9.4 7,963 17.8 2,421 ▼1.2 22,364 9.4
10 9,078 ▼4.6 8,090 ▼1.1 2,322 9.8 22,375 ▼2.5
11 9,024 ▼0.6 7,343 ▼6.2 2,033 ▼18.8 21,212 ▼5.3
12 8,743 10.3 7,263 2.1 2,370 13.8 21,431 8.7
2020年 1 7,398 ▼6.7 6,637 ▼3.3 2,085 10.7 18,771 ▼7.2
(令和2年) 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
2020年度(4~7) 23,016 ▼34.8 25,069 ▼16.9 8,220 ▼14.8 66,060 ▼23.7

 

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆 溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 7 9,544 14.1 8,137 16.1 2,300 2.2 23,101 12.4
(令和元年) 8 7,767 2.6 6,512 ▼7.4 2,164 ▼3.0 19,448 ▼1.1
9 8,885 13.8 7,560 10.2 2,367 ▼6.1 21,597 7.2
10 8,512 ▼11.1 7,792 3.7 2,136 ▼11.1 21,348 ▼6.5
11 8,012 ▼10.8 7,315 ▼3.2 2,054 ▼13.4 20,246 ▼7.9
12 8,596 8.9 7,498 4.1 2,519 31.1 21,619 9.5
2020年 1 7,000 ▼8.4 6,941 ▼6.7 2,224 ▼8.4 18,758 ▼11.9
(令和2年) 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
2020年度(4~7) 22,725 ▼35.0 24,980 ▼17.6 8,115 ▼15.0 66,240 ▼23.4

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
旧大阪中央郵便局跡地開発(大阪市北区)
S造・地上40階・延床23万平米 日本郵便ら3社

日本郵便、大阪ターミナルビル、JTBの3社は、JR大阪駅前の旧大阪中央郵便局跡地(大阪市北区梅田3-144-2ほか)で超高層複合ビルを建設。旧局舎建物の一部保存するため、9月末から曳き家工事に着手した。
旧局舎は約50メートル、北側に約25メートル移動させアトリウム内に保存し、大阪中央郵便局の歴史と記憶を継承する「感動的な商業空間」を作り出す計画。11月末からビル本体工事を始める。設計は日建設計、曳き家工事を含む施工は竹中工務店・西松建設・錢高組JVが担当。完成は2024年3月末を予定。
建設地の敷地は旧局舎跡地約8,900平方メートルと、JR西日本所有の大弘ビル、アクティ西ビル用地を合わせた1万2,890平方メートル。超高層複合ビルの規模は、構造はS造・一部RC造・SRC造、地下3階・地上40階建て、延べ床面積約22万9,000平方メートル。鉄骨総量5万5,000トン規模になる。最長高さ188メートル。
同ビルの貸室面積は約6万8,000平方メートル。基準階の面積は約4,000平方メートルと西日本最大級のオフィスフロアとなる。商業施設(地下1階~地上6階)の中心部に4層吹き抜けのアトリウム(旧局舎保存)を設ける。MICE(国際的なイベント)に対応したホテル(約400室)や1,200席の劇場なども収容し、大阪駅周辺エリアの新たなにぎわい拠点を目指す。
周辺は大規模なオフィスビルや商業施設などが集積する西日本最大のターミナル地区であるため、土地の合理的かつ健全な高度利用を促進し、質の高い都心機能の集積や魅力ある都市空間の創出を図る。地下歩道との接続により、JR大阪駅や地下鉄西梅田駅、阪神・阪急梅田駅などに地下階で直接アクセスし、JR大阪駅とはアクティ大阪を経由しデッキを介して連絡する予定である。このことにより、公共交通機関の利用を促進する。


連載/あの人、この人(6)
Iさん、ありがとう

半世紀以上も交友のあったIさんが昨年10月22日に72歳で亡くなった。Iさんはデベロッパー・M社の理事、設計・構造グループ部長として多くの開発プロジェクトに携わり多忙な日々の中、難病(脊髄小脳変性症)に侵された。2007年に通勤が難しくなり、社内外の人びとに惜しまれつつ退職。自宅療養となった。
私は既にリタイアしており、退職したIさんとは月2回ぐらい東武東上線沿いのIさん宅の駅周辺の飲食店や喫茶店で逢って、建築構造・建築界の話題や海外視察の思い出話と知人の消息などを交わすひと時を過ごした。だが病状が進み逢うことが叶わなくなり、奥様を通しての近況を聴くことでしかなかった。
私は80年3月W新聞大阪本社を赴任する。3年後、社長との確執もあり退職。鉄骨ファブ分野を担当していたので、記者仲間として懇意だったTさんが鉄鋼業界紙を辞め、鉄構業界紙のK出版を興していた。Tさんの強い要望で同社の大阪支社を立ち上げる。88年3月にK出版本社に異動となる。鉄構業界紙のほかに専門誌の発行を企画し、編集長として月刊鉄構誌を同年7月に創刊する。
Iさんとの出会いは創刊した翌年の春ごろ、かねてからお世話になっていた岐阜のY鋼業のY会長から「君も知っているだろう。M社設計部のI調査役。稀にみる気持ちのいい男だね。えっ知らない!だったら是非とも紹介するよ。上京の時に一緒に会おう」と言って、Y会長が仲介の労をとってくれた。
接見時のIさんの肩書は、M社設計研究所・建築設計ディビジョン調査役(構造担当)。「調査役」と聞いて年配者と思っていたが、面会したIさんは私より6歳下だった。功成り遂げた「相談役」でなく、組織内のまとめ役で管理職へのステップのようであった。
当時のM社は高層ビルや再開発プロジェクトが目白押しのため、Iさんは構造設計の指導・支援や意匠協力などを担い、国内・海外の設計事務所やゼネコンとの折衝など多忙を極めていた。鉄構専門誌の編集者として大いに興味があった。それから四半世紀以上の交友になると思わなかった。
Iさんは47年11月30日新潟・佐渡の生まれ。70年日大建築学科卒でN設計事務所入社。78年K工業傍系のK建設・設計部に転社し、85年M社設計研究所に構造設計のキャリアを買われ転社。設計事務所、建設会社と3度の転社もあってか、誠実で気さくな人柄から社内外から慕われながらも芯の強い人。私も3度転社しており、職種・能力・性格も異なるものの、Iさんとは何故か意気投合した。
M社は新橋、虎ノ門内に「第○号ビル」称したテナントビル業から再開発事業に着手する。ビルの耐震性を重視し、構造設計部門の強化をIさんに託された。再開発は赤坂(竣工86年)から始まり、御殿山(同90年)、城山(同91年)、六本木1丁目(同93年)などの大規模開発を手掛け、さらに中国・大連(同96年)、愛宕(同01年)、六本木六丁目計画(同03年)、表参道(同06年)、中国・上海(同08年)などとなる。構造部門の責任者のIさんの日常は多忙を極めていたが寸暇を惜しんでの交友となった。
M社の高層・超高層ビルの構造躯体はCFT柱を含む鉄骨造を主体にしていた。Iさん曰く「今はやりのHRC造(強高度鉄筋コンクリート)は混和剤を多用しており、耐久性に疑問がある」と言い、「鉄骨造は鋼材メーカーの品質管理とJISによる規格保証があり、大臣認定ファブが製作・管理、さらにNDI認証の検査会社が品質検査する」と製造責任が明確のため、「鉄骨造に限る」と明言して憚らなかった。
そうしたこともありIさんは、鉄骨構造、建築鋼材、鉄骨製作、鉄骨検査、溶接副資材、免震・制振機器など新技術や新製品、信頼できる企業情報に務めていた。私も微力ながら情報提供などの協力をすることもあった。
そんな延長線上でゼネコンを除く、構造技術者、鉄骨ファブ、鉄骨検査、溶接副資材の経営者、鉄鋼ミル・建材メーカー、総合商社の部課長らとIさんを囲む「懇親会」が生まれた。年2、3回集まっての歓談が交わされた。最盛期では20人を超えることもあった。Iさんが退社後も数年は参加されていたが、「迷惑かけるので、私抜きでも続けてください」の要望もあり、この会合は現在も続いている。
Iさんと海外建築視察は94年6月、Hグレードファブの新潟のK部長と愛知のT専務、溶接副資材のT社長、検査会社のM社長ら6人とが中国・大連市、上海市の鉄骨ファブの視察旅行をする。まだ改革開放したばかりの大連・上海市内は高層ビルが少なく、人混みと多くの自転車と超満員の路線バスが行き交う街だった。後に大連中心街にM社が高層ビルを建設することになる。
この時の視察では上海・外灘の黄浦江対岸の浦東地区再開発計画事務所を訪れる。浦東地区は小さな造船所があるだけの原野だったが同事務所には超高層ビルが林立する次世代都市のような模型があり、俄かに信じられない思いだった。それから14年後、M社は浦東新区の浦東陸家嘴金融街に高さ492メートル、地上101階の超高層ビルを建設した。その視察後もIさんとは建設の取材を兼ねて大連に1回、上海の建設現場には3回訪れることになる。
わが国の超高層建築化と相まって、香港、韓国、中国、台湾、フィリピン、タイなど東アジア諸国に対して鉄鋼メーカーや商社による建築鋼材・鉄骨製品の三国間貿易が盛んになり、日本の鉄鋼製品、鉄骨建築の優れた製品・構法が技術供与される一方、大手ゼネコンによる韓国、タイなど海外ファブの鉄骨製品の輸入が行われ、また鉄骨製作指導への技術者派遣などグローバル化へとつながる。
Iさんとそうした国の鉄骨ファブ見学や関係者と交流をしたことが編集企画や海外視察団派遣にも役立った。バリー島や釜山、バンコクでのゴルフ。上海や大連、ソウルでのショッピング。台北や慶州、アユタヤの観光巡りなどさまざまな出来事や想い出が走馬灯のように蘇ってくる。そして、いつもにこやかで、「ありがとう」の言葉が自然に出るIさんの人柄が偲ばれる。
突然の訃報に接したものの、家族葬のため参列もできなかった。後日の弔問で、奥様の話では「主人の容態が悪くなり、近くの介護施設に入り、そして朝食後に嘔吐したが誰も気づかず、気づいて医療処置をするも意識が遠のき、G大学病院に移された時は手遅れで、誤嚥性肺炎のため~」との説明だった。施設の人手不足か、介護士の怠慢にせよIさんの寿命を縮めことだけは確かだ。それでも奥様は「主人の安らかな顔を見て、Iの寿命と思いました」と結んでいた。
M社の建築構造に大きな功績を遺したIさん。そしてあの笑顔といつも感謝の気持ちを伝えるIさんを知る多くの友人、関係者は決して忘れることはないでしょう。Iさん、ありがとう。
【中井 勇】