スノウチニュース<№191> 令和2年9月
【鉄骨需要月別統計】
7月の鉄骨需要量は35万6,400トン(前年同月比26.1%減)
20年度4~7月は145万4,000トン(前年同期比14.4%減)
国土交通省が8月31日発表した「建築物着工統計調査」の2020年7月着工総面積は9,701千平方メ―トル(前年同月比19.0%減)となり、前年同月対比で11ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは7ヵ月連続となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が676千平方メートル(同6.2%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽民間建築物は9,025千平方メートル(同20.4%減)となり、同11ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,846千平方メートル(同16.4%減)となり、同11ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,855千平方メートル(同22.6%減)となり、同4ヵ月連続減となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,543千平方メートル(同25.5%減)の大幅減となり、同4ヵ月連続減となった。▽SRC造は42千平方メートル(同67.8%減)の昨年8月に次ぐ低水準となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。
一方、▽RC造は1,795千平方メートル(同6.9%減)となり、同5ヵ月連続減となった。▽W造は4,260千平方メートル(同15.8%減)となり、同12ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は35万4,300トン(前年同比25.5%減)となり、今年1月以来30万トン台の低水準が続いている。SRC造は2,100トン(同67.8%減)の大幅減となった。鉄骨造計では前月比3.4%減となり、35万6,400トン(前年同月比26.1%減)となった。
20年度4~7月のS造は142万3,900トン(前年同期比14.8減)、SRC造は3万0,100トン(同9.0%増)、鉄骨造計145万4,000トン(同14.4%減)となった。
19年7月-20年7月 鉄骨需要量の推移
年/月 | S造(TON) | 前年比(%) | SRC造(TON) | 前年比(%) | 鉄骨造計(TON) | 前年比(%) |
2019/7 | 475,600 | 0.7 | 6,550 | -49.9 | 482,150 | -0.7 |
8 | 421,100 | -4.0 | 2,500 | 64.5 | 423,600 | -3.7 |
9 | 348,300 | -18.1 | 7,600 | 29.7 | 355,900 | -17.5 |
10 | 367,900 | -16.4 | 5,500 | -44.5 | 373,400 | -17.1 |
11 | 351,000 | -14.8 | 4,650 | 12.4 | 355,650 | -14.6 |
12 | 402,700 | 2.6 | 5,400 | -29.7 | 408,100 | 2.0 |
2020/1 | 266,100 | -296 | 5,350 | 65.9 | 271,450 | -28.8 |
2 | 300,000 | -20.2 | 10,400 | 56.6 | 310,400 | -18.9 |
3 | 363,800 | 7.5 | 4,950 | 7.7 | 368,750 | 7.5 |
4 | 352,800 | -10.0 | 9,950 | 0.0 | 362,750 | -10.0 |
5 | 352,000 | -6.4 | 13,800 | 88.2 | 365,800 | -4.6 |
6 | 364,800 | -14.8 | 4,250 | 12.9 | 369,050 | -14.6 |
7 | 354,300 | -25.5 | 2,100 | -67.8 | 356,400 | -26.1 |
暦年計(20/1~7) | 2,353,800 | -14.9 | 50,800 | 20.7 | 2,404,600 | -14.3 |
年度計(20/4~20/7) | 1,423,900 | -14.8 | 30,100 | 9.0 | 1,454,000 | -14.4 |
(国土交通省調べ)
【建築関連統計】
日建連7月総受注額約9,745億円(前年同月比25.1%減)
民間工事は6,402億0,900万円(同32.5%減)
日本建設業連合会(日建連)が8月26日に発表した会員企業95社の2020年7月受注工事総額は9,744億9,300万円(前年同月比25.1%減)となり、前年同月比では5ヵ月連続の大幅減となった。うち民間工事は6,402億0,900万円(同32.5%減)となり、同7ヵ月連続の大幅減となった。官公庁工事は3,084億2,600万円(同26.6%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。
国内工事は9,501億9,300万円(同20.9%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減となった。民間工事の6,402億0,900万円のうち、▽製造業が1,482億5,800万円(同42.4%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減となった。▽非製造業は4,919億5,100万円(同28.8%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少に転じた。
官公庁工事の3,064億2,600万円のうち、▽国の機関が2,032億7,200万円(同85.2%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。▽地方の機関は1,051億5,400万円(同21.4%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽その他が15億5,800万円(同84.3%減)の大幅減となり、同3ヵ月連続減となった。▽海外工事は243億円(同75.5%減)の大幅減となり、同4ヵ月連続減となった。
20年度4~7月の受注総額が3兆3,221億8,200万円(前年度同期比17.1%減)、民間工事が2兆1,928億6,000万円(同14.7%減)、官公庁工事が1兆7,595億1,200万円(同18.5%増)、海外工事が499億7,600万円(同70.8%減)となった。
一方、7月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道636億8,700万円(前年同月比33.0%増)の大幅増となり、前年同期比では2ヵ月連続増。▽東北1,242億6,500万円(同7.2%増)となり、同5ヵ月ぶりの増加。▽関東3,483億8,300万円(同23.3%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減。▽北陸328億円0,900万円(同30.5%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。
▽中部717億6,900万円(同55.2%減)の大幅減となり、同2ヵ月連続減。▽近畿2,238億7,000万円(同39.6%増)となり、同3ヵ月ぶりの増加。▽中国179億2,400万円(同84.4%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少。▽四国110億1,100万円(同42.2%減)となり、同1ヵ月で減少。▽九州564億7,900万円(同31.0%減)となり、同1ヵ月で減少となった。
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7月粗鋼生産604.9万トン(前年同月比27.9%減)
6月普通鋼建築用56.4万トン(前年同月比19.2%減)
日本鉄鋼連盟が8月21日に発表した2020年7月の銑鉄生産は437.5万トン(前年同月比33.5%減)となり、前年同月比で5ヵ月連続減。粗鋼生産は604.9万トン(同27.9%減)となり、同5ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が441.3万トン(同32.6%減)となり、同5ヵ月連続減、▽電炉鋼が163.6万トン(同11.2%減)となり、同17ヵ月連続減となった。
鋼種別生産では、普通鋼が487.7万トンと前月比6.0%増、前年同月比23.6%減、特殊鋼が117.2万トンと前月比15.5%増、前年同月比41.6%減となり、前年同月比では普通鋼は5ヵ月連続の減少、特殊鋼は20ヵ月連続の減少となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は535.8万トン(同27.9%減)となり、同25ヵ月連続減となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は446.8万トン(同22.7%減)となり、同5ヵ月連続減となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は89.0万トン(同46.2%減)となり、同19ヵ月連続減となった。
一方、6月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は56万3,965トン(同19.2%増)となった。うち▽非住宅用が39万1,423トン(同16.3%増)、▽住宅用が17万2,542トン(同26.2%増)となった。鉄鋼減産の中での普通鋼受注量増加は19年3月の57万9,066トンに次ぐものとなった。
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6月溶接材料の出荷量1万6,863トン(前年同月比20.2%減)
20年上期の出荷量10万5,653トン(前年同月比16.9%減)
日本溶接材料工業会が発表した2020年6月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万6,417トン(前年同月比21.8%減)となり、前年同期比では6ヵ月連続減となった。出荷量は1万6,863トン(同20.2%減)となり、同6ヵ月連続減となった。在庫量は2万0,442トン(同18.0%増)となり、同6ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が5,008トン(前年同月比44.6%減)となり、前年同月比では6ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,744トン(同3.8%減)となり、同6ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が2,121トン(同14.6%減)となり、同5ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万6,417トン(同21.8%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが5,581トン(同35.3%減)となり、同6ヵ月連続減となった。▽FCWが6,525トン(同12.3%減)となり、同6ヵ月連続減となった。▽溶接棒が2,162トン(同10.8%減)となり、同6ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万6,863トン(同20.2%減)となった。生産・出荷量の大幅減は、建築鉄骨の端境減と造船の建造減、さらに新型コロナウイルス感染拡大による需要減が響いている。
在庫量の主品種は▽SWが7,271トン(同60.2%増)となり、同6ヵ月連続増となった。▽FCWが7,152トン(同8.5%増)となり、同1ヵ月で増加となった。▽溶接棒が3,147トン(同2.2%増)となり、同4ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計は2万0,442トン(同18.0%増)となった。
なお、20年上期(1~6月)の生産量は10万6,630トン(前年同期比15.9%減)となり、出荷量は10万5,653トン(同16.9%減)の減少となった。
19年6月-20年6月 溶接材料月別実績表
単位/トン
生産量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 | フラックス入りワイヤ | 前年比 | 被 覆 溶接棒 | 前年比 | 合 計 | 前年比 |
2019年度 | 6 | 9,033 | 9.2 | 7,013 | 20.9 | 2,483 | 12.8 | 21,003 | 8.1 |
(令和元年) | 7 | 9,917 | 17.5 | 8,397 | 15.9 | 2,314 | 24.5 | 23,626 | 15.4 |
8 | 7,378 | 1.5 | 5,974 | ▼14.6 | 2,141 | ▼3.3 | 18,338 | ▼4.9 | |
9 | 9,015 | 9.4 | 7,963 | 17.8 | 2,421 | ▼1.2 | 22,364 | 9.4 | |
10 | 9,078 | ▼4.6 | 8,090 | ▼1.1 | 2,322 | 9.8 | 22,375 | ▼2.5 | |
11 | 9,024 | ▼0.6 | 7,343 | ▼6.2 | 2,033 | ▼18.8 | 21,212 | ▼5.3 | |
12 | 8,743 | 10.3 | 7,263 | 2.1 | 2,370 | 13.8 | 21,431 | 8.7 | |
2020年度 | 1 | 7,398 | ▼6.7 | 6,637 | ▼3.3 | 2,085 | 10.7 | 18,771 | ▼7.2 |
(令和2年) | 2 | 7,379 | ▼13.6 | 6,788 | ▼8.0 | 1,940 | ▼20.7 | 18,359 | ▼14.2 |
3 | 7,645 | ▼18.6 | 7,251 | ▼2.4 | 2,320 | ▼1.1 | 19,613 | ▼11.5 | |
4 | 7,398 | ▼16.6 | 6,773 | ▼7.7 | 2,146 | ▼11.8 | 18,724 | ▼11.8 | |
5 | 5,519 | ▼29.1 | 5,340 | ▼28.0 | 1,726 | ▼28.7 | 14,746 | ▼28.7 | |
6 | 5,008 | ▼44.6 | 6,744 | ▼3.8 | 2,121 | ▼14.6 | 16,417 | ▼21.8 | |
2020年度計 | 計 | 40,347 | ▼21.2 | 39,533 | ▼9.1 | 12,338 | ▼14,7 | 106,630 | ▼15.9 |
出荷量 | |||||||||
年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 | フラックス入りワイヤ | 前年比 | 被 覆 溶接棒 | 前年比 | 合 計 | 前年比 |
2019年度 | 6 | 8,630 | 5.5 | 7,439 | 16.7 | 2,425 | 17.5 | 21,134 | 7.3 |
(令和元年) | 7 | 9,544 | 14.1 | 8,137 | 16.1 | 2,300 | 2.2 | 23,101 | 12.4 |
8 | 7,767 | 2.6 | 6,512 | ▼7.4 | 2,164 | ▼3.0 | 19,448 | ▼1.1 | |
9 | 8,885 | 13.8 | 7,560 | 10.2 | 2,367 | ▼6.1 | 21,597 | 7.2 | |
10 | 8,512 | ▼11.1 | 7,792 | 3.7 | 2,136 | ▼11.1 | 21,348 | ▼6.5 | |
11 | 8,012 | ▼10.8 | 7,315 | ▼3.2 | 2,054 | ▼13.4 | 20,246 | ▼7.9 | |
12 | 8,596 | 8.9 | 7,498 | 4.1 | 2,519 | 31.1 | 21,619 | 9.5 | |
2020年度 | 1 | 7,000 | ▼8.4 | 6,941 | ▼6.7 | 2,224 | ▼8.4 | 18,758 | ▼11.9 |
(令和2年) | 2 | 6,925 | ▼18.4 | 6,517 | ▼8.7 | 2,032 | ▼8.6 | 17,821 | ▼13.9 |
3 | 7,379 | ▼17.3 | 6,910 | ▼7.1 | 2,128 | ▼12.7 | 18,771 | ▼13.6 | |
4 | 6,627 | ▼21.7 | 6,470 | ▼24.8 | 1,885 | ▼24.8 | 17,491 | ▼18.3 | |
5 | 5,569 | ▼33.1 | 6,037 | ▼17.5 | 2,024 | ▼13.0 | 15,949 | ▼23.5 | |
6 | 5,581 | ▼35.3 | 6,525 | ▼12.3 | 2,162 | ▼10.8 | 16,863 | ▼20.2 | |
2020年度計 | 計 | 39,081 | ▼24.0 | 39,400 | ▼10.8 | 12,455 | ▼13.2 | 105,653 | ▼16.9 |
日本溶接材料工業会
【建築プロジェクト】
御堂筋北の淀屋橋駅西地区再開発ビル
S造系地上28階・13万平米、21年~25年完成
大阪市のメインストリート・御堂筋(中央区北浜4丁目地内)の淀屋橋駅西地区第一種市街地再開発事業の再開発組合が発足した。再開発ビルは延べ床面積約13万平方メートル規模の計画で、2021年に権利変換計画を認可取得後に着工し、25年の完成予定。設計・施工は未定。事業者には大和ハウス工業、住友商事、関電不動産が地権者・組合員として参画している。
再開発ビルの規模は、S造・一部SRC造・RC造、地下2階・地上28階建て、延べ床面積約13万1,800平方メートル、高さ約135メートルで、主な用途は事務所、店舗、駐車場。ワンフロアの貸室面積が3,300平方メートルを超える大阪最大級の規模を誇り、ハイグレードなオフィス空間を計画している。低層部には商業店舗を導入し、歩行者空間と一体となった風格のある街なみとにぎわい空間を創出する。
建設場所は、大阪市庁舎や日本銀行大阪支店がある中之島から、土佐堀川をはさんで南側の御堂筋沿い敷地約7,200平方メートル。再開発ビルは、地下で京阪電鉄、大阪メトロの淀屋橋駅と接続される。また、御堂筋に面した高さ50メートルの眺望の良い基壇部屋上階(11階)には、一般に開放した庭園やラウンジを整備し、新たなビュースポットとする。そのほか、街区単位でのエネルギーの面的利用(融通)や再生可能エネルギーの導入などBCD(業務継続地区)の構築も目指す。
なお淀屋橋駅前再開発では、日本土地建物と京阪ホールディングスが一体化し、御堂筋を挟んだ淀屋橋駅東地区再開発(北浜3丁目地内)計画もある。再開発ビルの規模はS造・一部SRC造・RC造、地下4階・地上28階建て、延べ床面積約7万3,600平方メートル、高さ約150メートル。22年の着工、25年の竣工を予定している。完成すれば御堂筋北側のツインタワーとなる。
連載/あの人、この人(5)
溶材機器商社のT社長
大阪は溶接のメッカだ。大阪大学工学部に国内唯一の溶接学科を擁し、名誉教授のO氏は溶接学会会長を8年間、日本溶接協会の初代会長を務めた溶接界の重鎮であり、阪大第8代総長にもなった。阪大の溶接工学研究所は世界屈指の研究機関である。
また、溶接機器はO変圧器、M電器産業、O電気の三大メーカーが君臨し、溶接材料メーカーでは最大手のK製鋼所と尼崎のS溶接工業、T電極が大きく市場占有。溶接・溶断と関連深い工業ガスメーカーではT酸素、D酸素、Kガス工業、O酸素、I産業、神戸の外資・T酸素(いずれも上場)が競い合う。ミルの高炉(和歌山、姫路)が控え、阪神沿岸は溶接・ガス需要先となる造船、橋梁、鉄骨、建機など鋼構造産業が盛んなため、高圧ガス溶材商社や機械工具商社が群雄割拠する。
その大阪には、W新聞大阪本社に1980年春、家族ともども赴任した。少し前置きが長くなったが今回紹介する人は、溶材機器商社D社のT社長。大阪中心部の長堀通りに面した立地に自社社屋を構え、主要都市に支店・営業所を擁する。D社は54年にT社長が高圧ガス用バルブの輸入販売を浪速区で興す。高度経済成長と共に業容も拡大し、75年に現在の本社社屋を建設する。
私とT社長との出会いは大阪赴任挨拶が初めて。関西高圧ガス・溶材界に精通しているT社長は、関東でも人望があって、その人柄から「歯に衣着せぬ」言動も許された。「商社は人で決まる」といわれているが、誰にでも隔たりなく、面倒見が良いことからD社の知名度も高く、業績も順風満帆だった。
赴任して1年ほどのある日。いつも対応の営業本部のS部長でなく、T社長から「今まで極秘で開発していた画期的な新製品を発表する。取材にきてくれんか?」と直々の招へいがあり、他紙記者らと会見場に出向いた。カタログとニュースリリフは、「タイコ、サイコロ」など言われている柱・梁パネルゾーンの角形鋼管(コラム)とダイアフラムとの自動溶接の「自動コラム溶接装置」である。既製タンテーブルと独自に製作した簡易型のポジショナーを組み合わせた形のコラム円周溶接専用装置。
一見して「上手いアイデアだ」と思った。しかも簡便で安価のため、鉄骨ファブの溶接技能者不足の解消と省力化につながる。売れ筋製品と直感した。T社長の「どおや、月産20台は行くとだろうか」との販売目論見に、私は即座に「十分いけるでしょう」と応えた。当時、鉄骨向けのロボット溶接はなく、溶接の自動化ではサブマージアーク溶接かエレクトロスラグ溶接などジグ専用装置だった。溶接の省力化が叫ばれてはいたが、サイコロ溶接、仕口溶接や大組立て溶接などもポジショナーや回転ジグなどの活用でしかなかった。同装置の記事・広告掲載後は鉄骨ファブからの反響はすぐに出た。
80年代の鉄骨需要は600万トンから1,000万トン台へと右肩上がりの時代。柱材は閉鎖型が主流となり、UB(ユニバーサルボックス)や4面プレートボックスからコラムへの移換期でもあった。コラム(ロールコラム、プレスコラム)とも急激に伸び、年間50万トン規模となる。在阪のNコラムメーカーのN常務は「60万を経て、いずれ100万トンになる」と豪語。ファブも生産増強のため設備投資に意欲的なため、自動コラム溶接装置のデモストレーション要請が相次ぎ、順調な滑り出しのように思えた。
だが、デモ実演で分かったことは、250ミリ径以下は上手くいっていたコラム径が300ミリ以上になるとコーナー(角部)ではトーチ角度・速度・ウィビングが上手くいかず、調整・改良が要求されることが分かった。機械的な仕組みのため、コラムの規格公差に加え、センシング機能が無いためにスムーズに溶接線を追従できなく、ビード外観に問題が出た。それでも「これは便利だ」と即購入するファブや大径コラムを扱うファブは躊躇するなど、さまざまな反応があった。中に「これなら開先なしでもいける」など冗談とも本音とも思われる発言もあったが、同製品に対する興味は高く、デモの要請は多かった。
発売以来度々D社営業課長らとファブへの同行取材、販売戦略の話や記事・広告掲載などのこともあり頻繁にT社長とも接触。そのうちに夕方なると「ちょっと行こうや」と呼び出し電話がくる。60代のダンディーなT社長のお供でミナミ(道頓堀)のバーやスナック、さらに通天閣周辺の馴染みの酒場での忌憚のない歓談となった。T社長の意外な癖は、コップに氷を入れ、ビールを注ぎ、氷に鼻を触れながら飲む変わった飲み方をする。そんなT社長が一度だけ、「わしの家に行こう」と強引に誘われ、近鉄沿線のご自宅に招かれ、普段話さなかった人生訓や経営手法を聴かされ、それが大いに役立った。
肝心の自動コラム溶接装置は月に数台のペースで販売が続いたものの、T社長の思惑に満たなく、改良型を重ねるも、直交座標型の鉄骨用簡易溶接ロボットが出現する。さらに溶接機メーカーやロボットメーカーによる多関節型溶接ロボットを応用した鉄骨専用ロボロットが相次いで発売され、その普及率も加速する。
81~83年にかけD社営業部が奮闘努力を続けたが、T社長の販売計画とは届かず頓挫するも、鉄骨溶接の自動化への熱意とアイデアで開発した自動コラム溶接装置は、鉄骨溶接はロボット化に取って代わったが、鉄骨溶接の自動化への道筋を付けたT社長の功績は大きく評価される。
【中井 勇】