株式会社スノウチ
*スノウチニュースは毎月1日発行です。
編集内容は [1] プロジェクト情報(鉄骨物件)、[2] 鉄骨市況(傾向分析)、[3]あれこれ(話題)等で構成します。
     
<<前号を読む 次号を読む>>
     
 

「スノウチニュース」No.149
平成29年4月号

 
   
 

【鉄骨需要月別統計】
2月は42万3,300トン(前年同月比4.9%増)
16年4月〜2月計475万6,700トン(前年同期比2.9%増)

 
     
 

 国土交通省が3月31日発表した「建築物着工統計調査」の2017年2月着工総面積合計は10,339千平方メ―トル(前年同月比1.1%増)の前年同月比で7ヵ月連続増となり、1千万平方メートルを維持した。
 ▽建築主別では、公共建築物が496千平方メートル(同6.7%減)の同1ヵ月で減少となった。民間建築物は9,843千平方メートル(同1.5%増)と同7ヵ月連続増で、1千万平方メートルを割った。
 ▽用途別では、居住建築物(マンション・住宅など)は5,999千平方メートル(同3.5%減)と、同8ヵ月ぶりに減少。非居住建築物(ビル・工場・店舗など)は4,340千平方メートル(同8.1%増)と同4ヵ月連続増となった。
 ▽構造別では、鉄骨系のS造が3,998千平方メートル(同3.6%増)と同7ヵ月連続増。SRC造は470千平方メートル(同35.4%増)となり、5ヵ月ぶりに増加。一方、RC造は1,739平方メートル(同10.2%減)で、同6ヵ月ぶりに減少。W造は4,069千平方メートル(同0.7%増)の同14ヵ月連続増で推移している。
 ▽鉄骨需要換算では、S造が39万9,800トン、SRC造は2万3,500トンの計42万3,300トン(前年同月比4.9%増)の7ヵ月連続で40万トン台を維持し、前月比では2.2%の減少となった。
 16年度(4月〜2月)累計では475万6,700トン(前年同期比2.9増)となっている。S造は465万6,000トン(同3.8%増)、SRC造は10万0,700トン(同9.6%減)となった。

16年2月−17年2月 鉄骨需要量の推移

年/月S造前年比SRC造前年比鉄骨造合計
16/2 386,100 ‐9.9 17,350 108.5 403,450
3 345,800 -3.2 14,700 -10.1 360,500
4 355,900 −17.9 10,400 ‐60.4 366,300
5 467,400 14.6 17,450 348.6 484,850
6 455,700 1.0 9,550 96.1 465,250
7 391,000 -13.4 4,350 ‐82.3 395,350
8 495,400 18.4 2,400 ‐60.7 497,800
9 439,900 7.4 9,000 92.5 448,900
10 401,400 0.2 5,700 -61.0 407,100
11 415,400 4.5 3,250 -15.7 418,650
12 407,600 7.6 8,700 -41.0 416,300
17/1 426,500 21.9 6,400 -30.5 432,900
2 399,800 3.6 23,500 35.4 423,300
(国土交通省調べ)
 
   
 

【鉄骨業界展望】

 
     
 

建設業許可「鋼構造物工事業」から
自立業界として「鉄骨工事業」への転換

 建築向けの鉄骨製品を供給する鉄骨ファブリケーター(鉄骨製作工場)は、建設業許可28専門工事業の「鋼構造物工事」業者でなく、国土交通大臣認定工場の「鉄骨工事」業界への新たな動きになつりつつある。
 「鉄骨業界論」は古くて新しい問題。このほど鉄骨ファブ団体の全国鉄構工業協会(全構協)の地方支部が提唱した「鋼構造物工事業から鉄骨工事業への分離独立」論に対し、本部は事業活動に捉えて進むとみられる。この分離独立論は全構協の前身、全国鉄構工業連合会(全構連)が1973年設立時より底流にあり、長年の課題であった。設立44年に向かって、新たなアクティブ・ラーニング(意見を交わし、課題を見いだす)が求められている。
 全構連は「ひとり親方」も含め1.5万とも2万社とも言われる鋼構造物工事業からミルメーカーのフレーム加工など建築鉄骨に特化した4,600余社によって結成された。当時を知る全構協・幹部は「(建築鉄骨は)供給先は建設現場のため建設省(現国土交通省)の所管、工場生産だから通商産業省(現経済産業省)の所管となった」と鉄骨の特異性が、省庁をまたぐ任意団体としてスタートし、一般社団法人化した現在でも両所管が続いている。
 全構連は勿論だが、構成会員の鉄骨ファブは鋼構造物工事業とは一線を画している。鉄骨工事業として自立するため82年に「自主認定工場制度」を実施し、88年には全構連推政経研究会によって「鉄骨分離発注」や元請け(建設会社)に対する「支払い遅延防止、受注単価の適正化」運動を展開する一方、全構連推進議員連盟を通じ、所管省庁・建設団体などに鉄骨工事の業界としての地位確立を求めるも実現できなかった。

 なぜ、鉄骨ファブが鉄骨業界論に固執するのかを検証すると、▽鉄骨ファブが製作する建築用の鉄骨製品は、大臣認定工場でなくては不可能な需給態勢になっている▽工場認定資格にはハード(工場規模・設備)、ソウト(技術者・技能者)の基準による5段階グレードに分類され、規模や難易度で区分されている▽軽量鉄橋・水門、鉄塔・貯蔵タンク、門扉・サッシなど鋼構造物と比べ、高層建築などの鉄骨製品は専用鋼材(SN材)や高張力鋼など特殊材質などを使用し、供給能力500万トン以上を有する受注製品(オーターメード)となっている。
 さらに、▽プレハブ住宅(軽量鉄骨)と分離した建築鉄骨の統計・資料などの確立が求められている▽鉄骨ファブ(鉄骨工事業)の地位向上と建築鉄骨製品化として認知されてきている▽業界としての事業活動や分離受注化などにも縦割り行政の狭間で取り残される問題どの観点からも独立した鉄骨工事業が望ましいとされている。
 他方、鋼構造物工事は時代と共にさまざまに変貌・発展してきている。とくに住宅系建材は、サッシ・門扉・エクステリアなどのメーカーに特化し、軽微な小屋物などの鋼構造物工事は減少を辿っている。建築鉄骨に特化した鉄骨ファブは、前述の大臣認定工場の取得とともに、品質規準や製作要領・検査規準など日本建築学会の「JASS6・鉄骨工事」「鉄骨工事指針」などによって製作される確立した鉄骨製品となっている。
 ゼネコン(総合建設会社)や建設会社の下請け業者ではなく、建築主からの分離受注や商社・特約店経由の受注、遠距離受注、共同受注など受注形態も多様化している。昨今では、構造設計・監理の設計会社とウインウイン(対等な取引関係)によって製作・納品される。また、建設連合会・建築学会・鉄鋼連盟・溶接協会・非破壊検査協会など関連団体とも密接な関係を保ち、鉄骨建設業協会(鉄建協)とも同一歩調で活動を進めている。

 鉄骨工事とは、鉄骨製品を工事現場渡し完了する物件と、鉄骨の建て方施工まで従事する物件に分類される。前者はとび工事業者、現場溶接業者が請け負う分業制となっているが、小規模物件に限って、建て方・現場溶接を含め鉄骨ファブが受注するケースも残っているものの、減少傾向にある。現在は、建て方はとび工事業者(日本鳶工業連合会)、現場溶接業者(AW検定協議会の認定資格保持業者)との分業化が進んでいる。
 鉄骨製品は、工事現場渡しのため納期・工期が厳守される。さらに製品の基準性能、要求品質が求められ、物件ごとの受注製作である。また、同一物件を複数ファブによる共同受注でも品質に遜色なく供給でき、精度など品質が統一されていなければならない。そうした意味では、PCa・PCメーカー(プレキャスト・プレストレストコンクリート建設業協会)と同じである。現場作業主体の鉄筋・型枠・とび工事などの職種と異なる独立した生産製品である。
 かつて関西の著名な構造設計家(故人)が「鉄骨ファブは大小にかかわらず多すぎる。統廃合し、全国に300社ほどに集約すれば、住宅プレハブ業界並の立派な業界になれる」との持論を提言したが、関西支部の全構連指導者は「(構成会員5,000社)数は力」と一蹴し、員外意見と異なる護送船団的な考え方が主流であった。
 鉄骨工事業界として確立するには幾つかのハードルを越えなければならない。まず全構協と鉄骨建設業協会との統合問題である。次に受注体制を強化するためM&A(合併・吸収)や協業・提携化など統合化を図る。さらに、(日本建築学会規準とは別の)鉄骨業界独自の品質基準や品質保証(保障)制度をつくる。鉄骨建て方工事をとび工事業者との明確な区分け。見積もりや取引契約(清算・支払い)の条件などさまざまな問題をクリアすること。
 ともあれ、受注物件ながら鉄骨製品化は加速している。全構協を中心とし、この機を逃さず、エポックメーキング(画期的)な組織改革を成し、鉄骨工事業として自主・自立できることに期待したい。

 
   
 

【建築関連統計】

 
     
 

日建連2月受注額1兆0,236.6億円(前年同月比3.5%減)
16年4月〜2月累計は12兆5,107億円(前年比4.9%増)

 日本建設業連合会(日建連)が3月28日に発表した会員企業97社の2017年2月受注工事総額は1兆0,416億6,300万円(前年同月比3.5%減)となり、1兆円台に戻った。うち民間工事は6,866億4,200万円(同9.9%減)と前年同月比5ヵ月ぶり減少。官公庁工事は3,370億0,200万円(同14.4%増)の2桁増に転じた。
 国内工事の受注が1兆0,236億5,600万円(同3.5%減)となり、民間工事は6,866億4,200万円で、うち▽製造業が1,519億3,700万円(同26.1%増)と同2ヵ月連続で大幅増となった。▽非製造業が5,347億0,500万円(同16.6%減)と同5ヵ月ぶりに減少となった。
 官公庁工事は3,370億0,200万円で、うち▽国機関が2,439億7,400万円(同39.6%増)と大幅増に転じた。▽地方機関が930億2,800万円(同20.0%減)と同2ヵ月連続の大幅減となった。▽その他は1,200万円(99.8%減)の大幅減となる。なお▽海外工事は180億0,700万円(同4.1%増)の同3ヵ月ぶりの微増。
 なお、16年4月〜17年2月の累計受注額は12兆7,266億6,100万円(前年同期比2.2%増)。うち国内受注は12兆5,108億0,900万円(同4.9%増)で、▽民間受注は8兆7,000億8,500万円(同3.1%増)、▽官公庁受注は3兆7,837億1,600万円(同9.6%増)。海外受注は2,158億5,200万円(同58.9%減)。
 また、16年2月の地域ブロック別では、▽北海道354億6,700万円(前年同月比35.5%増)▽東北1,136億4,200万円(同38.1%増)▽関東4,439億9,400万円(同5.1%増)▽北陸634億5,700万円(同175.0%増)▽中部922億6,600万円(同12.7%減)▽近畿1,499億4,700万円(同26.7%減)▽中国384億9,600万円(同49.9%増)▽四国282億5,200万円(同56.7%減)▽九州581億4,300万円(同45.2%減)となった。 地域9ブロックにおいて前年同月比増は北海道、東北、関東、北陸、中国の5ブロックとなり、東高西低となった。

2月粗鋼生産834万トン(前年同月比0.1%減)
16年4月〜17年2月計9,628万トン(前年同期比0.8%増)
1月普通鋼鋼材建築用は52万5,544トン(同13.8%増)

 日本鉄鋼連盟が3月21日に発表した2017年2月の鉄鋼生産は、銑鉄生産は622.4万トン(前年同月比3.3%減)と、前年同月比で2ヵ月ぶりの減少となった。粗鋼生産は834.0万トン(同0.1%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。16年4月〜17年2月では9,627.8万トン(前年同期比0.8%増)となった。
 炉別生産では、▽転炉鋼が632.1万トン(同2.9%減)と、同3ヵ月ぶりに減少し、▽電炉鋼が201.9万トン(同10.0%増)と、同5ヵ月連続増となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が639.1万トン(同0.1%減)と、3カ月振りの減少し、▽特殊鋼が194.9万トン(同0.1%増)となり、10ヵ月連続増となった。
 熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)生産は749.2万トン(同1.3%増)と、同7ヵ月連続増となった。普通鋼熱間圧延鋼材の生産は588.5万トン(同1.0%増)と、同2ヵ月連続増となった。品種別では、▽条鋼類は149.6万トン(同6.0%増)で、同5ヵ月連続増となった。▽鋼板類は434.1万トン(同0.9%減)となり、同2ヵ月ぶりに減少した。
 主要品種の生産内訳では、▽広幅帯鋼が355.5万トン(同0.7%増)と、同2ヵ月連続増となった。▽厚板は73.5万トン(同7.3%減)と、同3ヵ月連続減となった。一方、条鋼類では▽小形棒鋼が68.8万トン(同7.1%増)と、同3ヵ月連続増となった。▽H形鋼は32.8万トン(同6.1%増)と、同3ヵ月連続増し、▽大形形鋼は7.3万トン(同8.8%減)と、同10ヵ月連続減、▽中小形形鋼は8.5万トン(同7.7%増)と、同5ヵ月連続増となった。
 特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は160.7万トン(同2.7%増)と、10ヵ月連続増となった。16年4月〜17年2月では1,790.7万トンと前年同期比4.2%増となった。
 一方、普通鋼鋼材用途別受注量による建築用は52万5,544トン(同13.8%増)で、うち非住宅用は37万8,203トン(同15.0%増)。住宅用は14万7,341トン(同10.8%増)となった。
 なお、16年度(4月〜17年1月)の建築用は539万1,005トン(前年同比9.1%増)で、非住宅用は370万3,946トン(同1.4%減)。住宅用は168万7,059トン(同6.6%増)となった。

1月溶接材料、出荷高2万0,072トン(前年同月比0.8%増)
ソリッドの出荷高7,348トン(前年同月比2.8%減)

 日本溶接材料工業会がまとめた2017年1月の溶接材料生産・出荷実績によると、生産高は前年同月比2.0%減の1万9,313トンと19ヵ月連続減となった。一方、出荷高は同0.8%増の2万0,072トンと1ヵ月で微増に転じた。また、在庫高は9.7%減の1万8,730トンとなった。
 1月の主要品種の生産高をみると、▽ソリッドワイヤ(SW)は7,181トン(前年同月比6.7%減)で、同11ヵ月連続減少。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は7,112トン(同3.4%増)で、同5ヵ月ぶりに増加。▽被覆アーク溶接棒は2,355トン(同7.0%減)と、同2ヵ月連続減。その他を含む生産高は1万9,313トン(同2.0%減)である。
 一方、出荷高は、▽ソリッドワイヤ(SW)が7,348トン(同2.8%減)で、同3ヵ月ぶりに減少した。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は7,388トン(同2.2%増)と、同8ヵ月ぶりに増加。▽被覆アーク溶接棒は2,510トン(同0.4%増)と、同1ヵ月で微増となった。その他を含む出荷高は2万0,072トン(同0.8%増)となった。
 在庫高は、▽ソリッドワイヤ(SW)は6,965トン(同2.6%増)となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は6,260トン(同4.2%増)。▽被覆アーク溶接棒は3,025トン(同7.0%増)となった。 その他を含む合計在庫高は1万8,730トン(同9.7%減)となった。

 
   
 

【建築プロジェクト】

 
     
 

横浜MM21中央20街区にMICE施設
国際会議・ホテルの延べ床9万5,500平方メートル

 国土交通省観光庁はMICE(国際会議)の誘致力を強化するため、MICE都市を育成する「グローバルMICE戦略都市」を東京・横浜・京都・神戸・福岡の5自治体を選定し、世界トップレベルのMICE都市への支援をする。
 横浜市のMICE施設は、JR根岸線の横浜駅と桜町駅の中間に位置するみなとみらい21地区(MM21)中央地区20街区(横浜市西区みなとみらい1−9ほか)で推進される。MM21地区を地下鉄・みなとみらい線が走り、新高島駅、みなとみらい駅、馬車道駅があり、野毛町の繁華街、官庁街、中華街にも近く絶好のMICE施設となる。
 横浜MICE事業は、MICE施設・ホテル施設の2棟構成を竹中工務店が代表企業とする特別目的会社(SPC)「横浜グローバルMICE」のPFI方式が横浜市議会で決議され、いよいよ本格建設に着手する。
 同事業は、MICE(国際会議室など)施設、ホテル施設の2棟構成、総延べ床面積約9万5,500平方メートル。総事業費は378億1,800万円。事業期間は2040年3月末まで。事業方式はBTO(設計・建設・工事監理)をSPCが行った後、所有権を横浜市に移管した上で、SPCが維持管理・保全を行う。
 ▽MICE施設はS造、地下1階・地上6階建て、延べ床面積約4万6,970平方メートル、設計は竹中工務店、施工が竹中工務店・小俣組JVで17年8月着工、20年3月完成。▽ホテル施設はS造・一部RC造、地下1階・地上14階建て、延べ床面積約4万8,530平方メートル、設計は観光企画設計社、施工は未定。工期は17年度着工、20年3月完成予定。
 MM21地区は既存施設であるパシフィコ横浜があるものの、多くのMICEの機会を逃してきたため、20年開催の東京オリンピック・パラリンピックでは横浜MICE機能を充実・強化することで、「みなとヨコハマ」ブランドを国際的に評価されることをめざしている。SPC横浜グローバルMICEによるMICE施設(大会議室8室、中会議室10室、小会議室12室の延べ床面積約6,562平方メート)、国際ホテル棟を中心にMM21地区の核施設となる。

 
   
 

【雑論・正論】
ドイツで桜咲かせた人

 
     
 

 天災に遭っても、世情に変化があっても桜は咲き、人は桜に思を寄せる。可憐な3分咲き、凛々しく5分咲き、艶やかな満開、風に舞う花びら。「散る桜 残る桜も 散る桜」の句は、潔しく散る武士道の哀れさを誘う桜でもある。
 ドイツで桜を咲かせた肥沼信次(こえぬま・のぶつぐ)なる人物を偶然にも知った。BSテレビが詳しく紹介したことで、ドイツ絡みの偉人がもうひとり居たことに感動。ひとりは誰もが知る<東洋のシンドラー>と言われる杉原千畝(すぎはら・ちうね)。外務省の訓令に反してユダヤ系の避難民に大量ビザ発給した人道的行為はユダヤ人社会だけでなく全世界に知られた人。そして肥沼であるが、戦後東ドイツの町で亡くなった彼を知る人はそう多くない。
 肥沼が医師としてドイツの小さな町リーツェンで発疹チフスの治療に孤軍奮闘しながらも「日本の桜は大変きれいだ。皆さんに桜を見せてあげたい」と弟から送って貰った苗木を植えた。彼自身が発疹チフスに侵され37歳の生涯をドイツの地で散った。彼が植えた桜はリーツェンの庁舎公園や<肥沼通り>で今年も見事に咲くであろう。
 肥沼は1908年に東京・八王子の開業医の長男として生まれる。中学時代から数学にのめり込み他の教科ができず、旧制一高を落ち、アルバイトをしながら日本医大に入り、37年の29歳の時に東京帝大から憧れのベルリン大学医学部に留学。ベルリン大放射線研究所研究員として6年目で論文が認められ、東洋人初の教授となる。
 当時のドイツは、アドルフ・ヒトラーの独裁政治によるユダヤ排斥の中、同盟国の名誉ドイツ人として特別扱いながらもナチスに媚びない姿勢を貫き、日本人の優秀さを公言してはばからなかった。44年のフンボルトハウスでの講演で「日本人は欧州人の自然科学を生み出したのと同じ能力を持っていた。その証拠としてライプニッチやニュートンとほぼ同時期に、関孝和は書式こそ異なるが、かの高等な微積分学とほぼ同一の計算式を考案していた」と述べ、「欧州人と等しい自然科学の理研究能力を持っている」と<日本人優秀論>を唱えた、と言われている。
 ドイツの敗戦後、肥沼はポーランド国境近くのリーツェンに移り、難民収容所医師として発疹チフスの治療に専念する。劣悪な環境で薬剤もない中、自身の命をも惜しまず献身的な治療に従事した肥沼を、リーツェン市民は70年後の今でも忘れていない。彼の植えた桜は、彼が眠る墓地や肥沼通りなどで咲き、桜の美しさをめでている。
 昨今の日本は桜のような清らかさや潔さなど<謙譲の精神>が失われ、欺瞞・傲慢さが幅を利かせ、日本人の品位や寛容さ、思いやりのない世情に。桜をめでるリーツェン市民がこうした日本人の姿をどのように見ているか。

【加藤 文雄】

 

 
     
鉄骨造建築プロジェクト一覧はココから
     
SUNOX copyright(C)SUNOUCHI